強奪

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 杉元が塀に肩を預けるようにしてもう一度店を覗きこむ。松樹もオペラグラスで店舗の入口を見だした。  窓際には二人の女性客が座っているのが分かる。角度の問題から奥までは分からないものの、おそらく隅のほうで三國が木崎を監視しているのだろう。  犯人の指定した時間まで残り二十分。  女性が一人入ってきた。カウンターで何かを買って出て行く。五分が経ち、今度は小さな子供を連れた若い母親が入店した。同じくカウンターでやりとりをしたが、手ぶらで出て行く。また五分経過。今度はレジ袋を持った老婆が店の前を通りかかり、一旦立ち止まったが、そのまま駅のほうへと歩いて行った。 「まだ何の動きもないわね。ネットも特に騒いでないみたい」  オペラグラスを片手に、スマホをいじりながら松樹が呟く。 「ええ、そのようですね。ところで……そろそろ腕が疲れてきたのですが……」 「あと五分じゃないの。ひゃっ」  松樹の体を持ち直しながら、杉元はため息をつく。 「五箇所にはそれぞれ捜査員が張り込んでいますし、遊撃隊も準備しているのです。ここにいても動きは分からないと思います。ただの愉快犯ですよ。うろうろする刑事らしき人たちを見て嘲笑っているだけの」 「だとしてもさ。SNSとかマイクロブログで何も騒いでないのが気になるのよね。愉快犯なら犯行声明ぐらいぶち上げるもんでしょ? 有名どころを探しても、特に何もないのよね」 「もしかしたら、警察に恨みを持つ者という可能性もあります。悪く言われることの多い組織ですし、不祥事も多々あります」 「嫌がらせってこと? それでも、誘拐なんてリスク高すぎよ。やるとしてもせいぜい爆破予告ぐらいじゃないの? 一千万ってのも妙に気になるのよね……ん?」  松樹がスマホをジーンズのポケットに戻し、両手でオペラグラスを覗きこんだ。それは杉元にも見えていた。店の前を通る細い路地に、一台の白いセダン車が角を曲がって入ってきたのだ。  警察車両には見えない。 「松樹さん。ナンバープレートを……」 「嘘っ!」  そのセダンは突然スピードを上げたかと思うと、細い路地の幅を目いっぱいに使ってカーブし、そのまま店へと突っ込んでいったのだ。  ガラスの割れる音と同時に悲鳴が上がる。
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