81人が本棚に入れています
本棚に追加
犯人の狙いが金ではなく店そのものだとしたら。店主に恨みを持つ人間だとしたら。その可能性を考えていなかった。その場合、プロレスラー相手に武装している可能性が高い。だとしたら、三國が危ない。
「あっ、ちょっと!」松樹を背中から下ろすと、杉元は屋上のドアへと駆け込んでいった。「松樹さんはここから動かないでください!」
エレベーターを待つ余裕はない。杉元は階段を飛ぶようにして降りて行く。一階のドアを押しのけるようにして出ると、空から松樹の叫ぶ声が聞こえてきた。
「そっちに来るわよ!」
店の中からセダンが勢い良くバックで出てきた。そして切り返すと、まっすぐ杉元のほうへ向かってスピードを上げてくる。店の入口近くで倒れている背の高い男はグレーのスーツを着ていた。三國だ。
「くそっ!」
乗っているのは男が二人。助手席の男はひげメガネで右目に泣きぼくろのあるアフロ、運転席の男は青い目出し帽を被り鋭い目でこちらを見ている。
立ちはだかって止めようとしたが、その急スピードに身の危険を感じて脇へと飛び退ける。しかし間に合わず、
「うぐっ!」
バンパーに腰を当てられサイドミラーで胸をえぐられるようにして跳ねられて、地面へと倒れこんだ。空から松樹の悲鳴が聞こえてくる。
「うわあああっ!」
転瞬。アスファルトに横たわる杉元の視界に映ったのは、白いセダンが通行人のサラリーマンを跳ねたシーンだった。ダークスーツの体がフロントガラスに乗り上げ、そこから横へ流れるようにして頭からアスファルトに落ちる。
地面で動かなくなった男性の足を後輪で轢くと、セダンはそのまま角を曲がって走り去っていった。
「くそ……ううっ……」
立ち上がろうとしてアスファルトに手をついた杉元は、腕の付け根から胸にかけて走ったひどい痛みに、一瞬だけ呼吸ができなくなり呻いた。
肋骨が折れたようだ。冷や汗をかきながらも何とか立ち上がり、轢かれた男性の元へ右足を引きずりながら向かいつつ、ジーンズのポケットからスマホを取り出して救急車を呼んだ。
「おい、お前! 待て、動くな! 警察だ!」
杉元がアスファルトに血を流して倒れている男性に近づくと、背後から低い声で怒鳴られた。振り返ると、スーツ姿の男性二人が拳銃の銃口をこちらに向けて構えている。
最初のコメントを投稿しよう!