強奪

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 最初にやってきた救急車が店の前で停まる。次にやってきた一台は事態が飲み込めていないように近くで停まり、降りてきた救急隊員が迷っているのを見て、松樹は手を振りながら呼びに行った。  二人の元へと救急車が到着し、さらにもう一台が店に来て搬送を始める。その頃には物音を聞きつけた野次馬が集まり始めたため、応援を呼んで規制線を張らなくてはならない状態になっていた。  杉元は轢かれたサラリーマンとともに救急車へと乗り込み、今回は松樹も同乗して一緒に病院へと向かう。 「愉快犯なんかじゃなかったわね。相手はガチでお金を奪いにきた。プロなんじゃないの?」 「そうではないと思います……痛つ……」車内で応急手当てを受けながら、杉元は首を横に振った。「手口が荒すぎますし、覆面も顔を完全に隠しきれていませんでした。稚拙な感じがします。うう……」  胸が痛みだし、杉元の顔が苦痛に歪む。松樹も話を止めてその脇に座って杉元の体を支えた。そして二人の間に会話がなくなる。車の揺れで響いてくる痛みに耐えている杉元の頬を、松樹が優しく撫でる。  それから十分ほどして、病院へと到着した。 「あ、昨日はありがとうございました」  松樹に付き添われて救急車を下りた杉元を見て、患者の受け入れにやってきた女性の看護師が頭を下げた。 「ああ。昨日の……こちらこそ、またお世話になります」そう頭を下げると、看護師がくすりと笑う。「僕の手当もお願いしたいのですが、一緒に搬送されてきた人は事件に巻き込まれた方でして、身元も分からないのです。もし所持品などから分かりましたら教えてもらえますか?」 「ええ、分かりました。そのように伝えておきますね」  すぐに医師も到着して、まずはレントゲンを撮ることになった。二十分ほどして終わると松樹の姿は見当たらなかったものの、そのまま処置室へと戻り、肋骨に固定バンドを巻いてもらい、擦り傷の手当を受ける。  すると先ほどの看護師からサラリーマンの意識が戻ったことを伝えられ、話を聞きに行った。しかし、それは完全な無駄足となってしまう。あまりに突然のことで、自分を跳ねた運転手の顔は元より、車の色すら覚えていないと話したからだ。  どうやら自分以上の情報はないと諦め、家族と保険組合に連絡を入れることと、交通事故の証明は自分ができるとして財布の中に入っていた名刺を渡してその場を後にする。
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