強奪

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「襲撃されるなんて想定外だったんだよ。捜査本部も、犯人からの連絡先ってだけで、店の警備は重要視されてなかった。だから俺と誘拐対策班の二人しか置いてなかったんだ」 「それでお金を奪われたのよね?」 「ああ。五箇所に置いた残りの五千万は家にあったからな。アフロのほうが母親に詰め寄って場所を聞いてた。金を入れたバッグごと持っていきやがったんだ」  そう語る三國の表情には悔しさが滲んでいた。  まさに目の前で犯罪が行われたのに、それを阻止できず、倒れた状態で彼らを見送ってしまったのだ。不可抗力だったとしても、その自責の念がいかほどのものか、杉元には痛いぐらいに分かった。 「でもさ、その五千万にはGPSか何かつけてんじゃないの? お札の番号だって控えてたりするはずだし」  松樹の問いに、三國が首を横に振る。 「五箇所に置いた一千万にはGPSもつけて番号も控えてあったんだけどよ。時間が短かったせいもあって、家の方には何にもしてなかったんだ」 「そうだったんだ……それにしてもおかしいわね」松樹の言葉に、腕時計へと目を落とした三國が何がと問い返す。「まっすぐ家のドアに向かって行ったのよね? 従業員かもって疑わなかったの?」 「俺もバカじゃねえからな、真っ先に報告したさ。元従業員は分かる範囲で張ってたが動きはなかったらしい。関係者も含めて、木崎と奥さんにも協力してもらって捜査を始めるところだ」 「だったら、そもそも――」  三國の携帯が鳴った。松樹が喋るのを手で止めると、三國は電話に出ながら取調室を出て行った。だがすぐにドアが開き、通話を終えた三國は松樹を手招きして取調室から連れ出した。  一人取調室に取り残された杉元にとって、これから何が起きるのかは分かっていた。  緊張で手のひらに汗がにじみ出てくる。見てしまった以上、あの行動はとらざるを得なかった。だが、それは正しかったのか。自問自答を繰り返していると――ドアが開いた。  現れたのは、署長の湯島だった。  皺ができるほど寄せた太い眉、その下にある目には、怒りと悲しみが混在したような、どこか寂しげな表情を浮かべている。  杉元はパイプ椅子から立ち上がると、背筋を伸ばして敬礼した。 「杉元。座ったままでいい」 「し……失礼します」
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