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真夜中の捜査
「ふう……」
自室に戻ってきた杉元は、少し酔いの回った頭で座布団を出すと、そこへあぐらをかいて座った。疲れたように頭を回し肩を揉んでいると、少し後にやってきた松樹がその隣へ仰向けに横たわる。
「あー、畳ってやっぱりいいわね」その顔は、杉元よりも赤かった。「おじさんは、そのまま部屋で寝ちゃったわよ。はー、疲れたぁ」
松樹も同じように首を回す。ボキボキという音が聞こえたのを受けて、杉元はその小さな体を起こして座布団に座らせると、松樹の頭と肩をマッサージし始めた。
「はー、気持ちいい」
「色々と……本当にありがとうございました。まさか父があれほど……何と言うか、乱れるとは思いもしませんでした」
「よっぽど嬉しかったのよ。あー、そこそこ。気持ちいい……何度も私の手を握ってさ、ぜひ新一を頼みます、うちの全財産をあげるからって、何度も何度も」
杉元は苦笑いするしかなかった。
最初はまた面倒なことをしてくれたと頭を悩ませていた杉元だったが、あれは松樹なりに考えてのことだったとすぐに気がついたのだ。自分の行動が元で引き起こした事態、それで責められるのを何とか和らげさせたいという気持ちからの行動だったと。
その効果はてきめんどころか、効きすぎたようだ。
いちご大福にしか興味を示さなくなったのは、母親を亡くしてほとんど男手一つで育ててしまい、再婚など考えなかった自分のせいだと一治は告白し、こんな息子をどうか頼むと土下座までしだしたからだ。
それは一治だけに留まらなかった。
「あんた、ホントに周りに好かれてるのね。まさか課長さんたちを呼ぶとは思ってもなかったわよ」
「ええ。こぞってお祝いをしていただいて……本当にどうなることかと」
捜査の最中だというのに刑事課長も時間を割いて来てくれて、杉元と松樹を祝福し、次の就職先すらその場で探しかねない勢いだった。交通課長も、最初ははとこだと紹介していた松樹が実は恋人だと分かり最初は混乱していたものの、事情を知ってからは杉元の人柄の良さと誠実さを延々を語りだし、しまいには結婚式場の支配人をしている親戚に連絡までしそうになるという始末だった。
もうその時点で、湯島からの辞職勧告はどうでもよくなっていた。というのも、誰もが湯島のやり口について不満を言っていたからだ。
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