真夜中の捜査

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 今回の件について、交通課長は力になれず済まないと何度も謝り、刑事課長はそのやり方に始終文句を言いっぱなしだった。 「ま、結果オーライっぽいから良かったじゃないの」 「確かに……そうですね」  そんな最中、また仕事へと戻ろうとした刑事課長の元に連絡が入ったのだ。それは、誘拐されていた木崎あやが犯人から解放されたという内容だった。  タオルで目隠しとさるぐつわをされた状態で、渋谷駅の中央交差点付近に降ろされ放置されていた彼女を通行人が発見して警察へ連れて行き、近くにいた捜査チームによって保護されたというものだった。  怪我や性的暴行はなかったものの、体に触れられたり騒いだら殺すと何度も脅されて、精神的にかなり衰弱しきった様子だったらしい。  病院へと運び込んだ彼女から事情聴取をして、誘拐から解放までの経緯が明らかになった。  金曜日の夕方、店の手伝いに嫌気がさしていた彼女が渋谷の街なかをぶらついている時、犯人たちから声をかけられ、ワンボックス車に連れ込まれたという。  犯人は二人組の若い男で、ヒゲメガネの変装をした泣きぼくろのあるアフロの男、もう一人は青い目出し帽を着けた目つきの鋭い男で、見覚えはなかったと証言した。  すぐに両手を縛られると、さるぐつわと目隠しをされ、音楽の流れるイヤホンを着けられてしまい、それからどこをどう行ったかは分からないが、しばらくしてアパートかマンションのような部屋に連れ込まれ、そこでずっと監禁されていたと話した。  それから何日も同じような状態で、どれぐらいの時間が流れたのかすら分からなかったという。食事の時だけはさるぐつわを外されたものの、イヤホン越しに騒いだらナイフでめった刺しにすると言われ、叫ぶこともできなかったらしい。  一度だけ、イヤホンとさるぐつわを外された時があった。それは犯人のうち一人が店の構造について聞いてきたため、答える必要があったからだ。かなり時間が経っていたことと恐怖から、その時の相手が渋谷で自分を誘拐した二人のうちどちらなのかまでは分からなかったと証言している。  そして突如として部屋から連れだされた彼女は、車で移動すると、そのままの姿で降ろされ――発見に至ったのだった。  結局、犯人を特定できる情報はなく、依然として五千万円と犯人グループの行方は掴めない状態に苛立ちながら、刑事課長と交通課長は帰っていった。
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