真夜中の捜査

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「おじさんも言ってたでしょ? 他の仕事を探せばいいって。ま、人生、なるようになるわよ」  杉元のマッサージで体がほぐれたのか、再び畳へと仰向けに横たわった松樹が、ストレッチでもするように宙へ向けて足を遊ばせる。 「ええ。それには僕も驚きました」  人命は失われなかった。復帰へのチャンスにはなるだろうが、無理に警察官として生きなくてもいい――一治はそう言ってくれたのだ。  少年グループによる襲撃事件の時は上層部に対して怒りを燃やしていたが、自分自身、第一線から身を引き、海外で交番業務を教えるという仕事に就いてみて、人が人を守るという仕事は他にもたくさんあることを身に染みて理解したという。  一抹の寂しさは残るが、それでも自由に、悔いのないよう生きて欲しい。そう言って、一治はまた涙を浮かべながらこう言った。 「孫はできるだけ早くって言われてもね」 「まだ恋人同士だと言っているのに、子供は一姫二太郎で、名前までつけ出して……それこそ、人工授精でもしないと無理な二人に無茶ばかり言っていましたね」ひとしきり笑いあった後、杉元は松樹を見やった。「それにしても良かったのですか? 連絡先まで教えてしまって。僕の助け舟として名乗った恋人役だったのに……もうかなり引き返せないところまで来てしまったような気がしますが」  松樹が苦笑する。 「しょうがないじゃない。つい言っちゃったんだから。こっちもなるようになるわよ。とりあえず――」そう笑いながら、松樹はその小さい体を起こした。「お風呂借りるわね。もう汗かいちゃって、ベッタベタで」 「ええ、どうぞ。隣の部屋に寝床を用意しておきますので」 「ありがとー」  部屋に置いておいたキャリーバッグから着替えを取り出して、部屋を出て行く松樹。その後ろ姿を見て、杉元は思わず笑ってしまった。  人は出会って一週間で、ここまで距離を縮められるものらしい。初めて会った時は雰囲気が最悪この上ない状態だったのに、今では替えの下着を見せても何とも思わない関係になっている。  不思議なものだ。
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