真夜中の捜査

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 木崎あやの解放をトリガーとして報道協定が解かれたのだろう、各種マスコミは警視庁の記者発表をベースに、事件の経緯を事細かに報じていた。  目立ったのは、劇場型犯罪という言葉だった。五千万円を奪うために未成年者を誘拐し、さらに都内二箇所で爆発を起こし多数の負傷者を出したことについて、犯人たちは必要以上に目立ちたがっているという分析や論調が多数見受けられる。  また、娘を奪い返そうと五人を襲い、うち一人を殺害してしまった父親の、被害者から加害者になったという奇異な点も事件報道に厚みを持たせており、ひと通り読み解くのに一時間以上を要してしまった。  結局、ニュースから得られたのは、犯人たちが和洋菓子本舗襲撃に使った車が盗難車であることだけだった。  次はSNSやブログを確認していく。ネットでは、警察の捜査に対して憶測を交えた非難や誹謗中傷が賑わいを見せていた。  娘を救おうとした父親を逮捕する前に犯人を捕まえないのは警察の怠慢に過ぎない。二箇所の爆発は警察の無能が引き起こした責任だから、被害者たちに一生かけて償うべき。アメリカならテロリストにも近いこんな犯罪者を野放しにする日本はもう終わりだ。警視庁を解体せよ。  ありもしない仮定や推測をさも事実のように用い、それを元に飛躍的な論法を使ってピントのずれた、過激な結論を導き出す。それを転載する者もいれば、私見を混ぜて自分は正しいと主張する者、遠因は政治にあるとして与党を糾弾する者――それらがネットへ瞬く間に拡散されていくさまを目の当たりにして、杉元は大きくため息をついた。 「言っとくけど、私はこんなこと書かないからね」 「分かってます。そもそも松樹さんは情報の一次提供者として活動しておりますし、以前からマイクロブログをフォローしていて、そこらへんのモラルをお持ちであることは存じてましたから」  理解を示した自分の言葉が何か引っかかったのだろうか。松樹はしばらく無言のまま杉元を見つめていた。 「……どうかされましたか?」  すると、松樹は首を横に振った。 「ううん。そうじゃなくて、何か思いつきそうだったんだけど……ま、いいや」うーんと唸りながら、松樹は頭に巻いていたタオルを解いて、その長い髪を手櫛でふわりと掻き上げる。シャンプーの香りが杉元の鼻をくすぐった。「まだ犯人の目星もついてないのよね。どう思う?」
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