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「あのアフロの男ですよね。プロファイリングですか?」
「そう。交通課だけど、捜査にはこれまでも関わってきたわけでしょ? 何か思いつかないの?」
タブレットから目を離して、向き合う二人。松樹はもう一本のタオルを出して、髪の水分を丁寧に拭っていく。その仕草を見ながら、杉元は考えた。
「そうですね……娘さんの証言では顔見知りでなかったということから、両親と従業員の交友関係の先に犯人がいると思います」
「その理由は?」
「単純です。改装資金で一億を準備しているという状況を知っている範囲ですね。それがどこからどう漏れ伝わったのか」
「でも、そうだとしたら広いんじゃない?」
「ええ。テレビや雑誌の取材で話をした可能性がありますし、他愛ない日常会話に出てきたのが広まったとしてもおかしくはありません。娘さんを誘拐のターゲットに絞った点から考えても、対象が広いでしょうね。店で働いていることは店舗に行けば分かることですし。そこから日常の行動を探ることもごく普通にできると思います」
杉元は、たまたまあの店に目をつけた第三者説を頭の中に思い浮かべていた。
「やっぱ従業員なんじゃない?」
だが、松樹は違うようだった。
「どういうことですか?」
「何度か下見してるにしても、店に突入してお金を奪うまでが鮮やかすぎるし、残り五千万が家にあったなんて誰が教えたわけ?」
「それは課長に入った連絡にもありましたが、家の構造は娘さんから聞き出したのですよね。その時に話をしたのではないですか? 貴重品はいつもどこへ置くとか。突入した時にも、奥さんを脅して聞き出しているという話でした」
「そっか、そうだったわね」
「作戦の一環だったのでしょう。一億円を用意させておいて、突然五千万を一千万ずつに変更させる。銀行へ預け直す暇はありません。かと言って警察に預けてしまうと、犯人たちが残りの五千万を要求してきた時に対処できませんから」
「あいつら、結構頭いいのね。ってことは、従業員じゃなくてもできたってことか」
「そうでしょうね。事情さえ把握していれば、ネットで見聞きしていた人でも成し得た犯罪ではないでしょうか」
結局は、やはり広い範囲に容疑者がいるという事実を再認識したに過ぎなかった。
二人とも、何をどう考えていいか分からなくなったように、部屋のあちこちへ視線を移しては唸っている。
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