真夜中の捜査

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 一旦考えることを止めた松樹が、杉元の部屋から長い突っ張り棒を持ってきて部屋の上に着け、そこにタオルを干す。そして同じように借りたドライヤーで髪を乾かしながら、あくびをすると、ふと思いついたように松樹が言った。 「ね、もっと喋ってよ」 「はい……?」 「何か思いつきそうだったの。もうちょっと喋ってみて。思いつくままでいいからさ」 「そうは見えませんが」もう一度あくびをして目に涙を溜めた松樹を見て、杉元が苦笑する。「まあ、眠気覚ましになれば……と言っても、今のところ何も思いつきませんよ」 「何でもいいから」  そうは言われてもと思ったが、自分もよく理解できていない部分があることを思い出して、一から経緯を辿ってみることにした。 「それでは、時系列を整理してみますね。最初に木崎あやさんが誘拐されたのは、先週の金曜日、夕方でした。場所は渋谷の路上。犯人はヒゲメガネのアフロと青い目出し帽の鋭い目つきをした男です」 「うん」 「その日の夜に、一億円の身代金を要求する電話が入りました。ですが、受け渡しの方法は翌日伝えるとして一旦電話を切られてます。そして翌日に日暮里駅のコインロッカーで受け渡しをするよう指示がありましたが、それでは娘さんの安全が保証されないと木崎さんが拒否、そしてヘルシー羊羹セットを注文した人に受け渡しのメモを渡すことになりました」 「それで連続通り魔に発展したのよね」 「ええ。日曜日から月曜日にかけ四名を暴行してます。そのうちの一名が西谷さんで、彼は午後一時ごろに殴られて亡くなりました」 「ありもしないメモを渡すって言った、その目的は何だったのかってことよね」松樹がその長い髪を丁寧に指で梳いていく。「結局、木崎さんを陽動したことになるけど……何の意味があったの?」 「誘拐対策班は、既に警察が張り込んでいる可能性があると考えた犯人たちが、木崎さんの出方を伺うためにしたと推測していたようです。有川さんのデジカメにアフロの男が映っていたことから、様子見していた可能性が高いですね」 「そうよね。一人目を殴り倒してるところを見ちゃったら、危なっかしくて取引なんて言い出せないか」
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