真夜中の捜査

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「仮に犯人が木崎さんの奥さんに身代金を持たせるように言ったとしても、木崎さんは拒否したのではないでしょうか。彼が自分自身で犯人に渡すと。その時に犯人を襲うつもりだったはずです。犯人もそれを知っていて苦慮したのではないでしょうか。様子見を続けるうちに、三人、四人と犠牲者が増えていきました」 「というと、その間は木崎さんが勝手に行動してたわけだから、四件の襲撃事件は犯人に関係ないわよね?」 「そうだと思います。そして昨日、松樹さんが罠にかけて木崎さんをおびき出し、警察沙汰になり、誘拐の事実が発覚しました。その日の夜に犯人から翌日――つまり今日、取引を行うことを通知してきました。その内容は五千万を一千万ずつ分けて五箇所に配置するというものです。そして取引の時間となった午後三時、和洋菓子本舗に車が突っ込んで残りの五千万が強奪されました」 「うーん」  杉元の説明を受けて、松樹は唸った。  あぐらをかき腕を組んで眉間に皺を寄せながら、口をへの字に曲げている。 「おかしくない?」 「その変顔がですか?」 「誰がブサイクよ。そうじゃなくて」松樹は顔を叩いて元に戻し、「出方を見るって言っても、どうして今日まで待ったわけ? 金曜日に誘拐して受け渡しの方法でモメたけど、土曜日には何らかの方法でできたわけじゃない。なのに水曜日まで五日間も待つ理由は? 引き伸ばす意味なくない?」 「確かにそうですね。引き延ばせば引き伸ばすほど身代金を受け取れるチャンスが減りますし、それと反比例して逮捕されるリスクは高まります。だからこそ、スピード誘拐が流行るわけでして……犯人側に何らかの都合が生じたのではないですか?」 「何の都合? まさか普段は出勤しててとか、そんな馬鹿な話ないわよね?」 「監禁しておくには別途監視を置く必要がありますし、それはないかと思います。リスクの面からも、後にずらせばずらすほど危険ですし……水曜日でなくてはならない理由があった、とかはどうでしょうか?」  その言葉に、松樹がぴくりと反応した。杉元をじっと見据えてくる。もっと話せということだろう。 「その日、犯人たちにとって犯行が失敗するリスクを下げるべき何らかの要因があったのではないでしょうか。警察の体制までは知り得ないでしょうし、だとしたら店舗側の状況でしょう。例えばですが、水曜日はお客さんが少ないとか……」
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