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写真のほとんどはテーブルの上に置かれた料理とそれを食べる木崎あやの指が映っているものばかりだったが、ごくたまに床が覗いている画像もあった。
リノリウム製のような灰色で、松樹が拡大するためにピンチアウトさせると、またファイル名と画像サイズが表示された。
それを見て杉元が思いつく。
「まさか、そんなマヌケなことはしていないと思いますが……お借りしても?」
「え? うん。いいわよ」
タブレットを受け取った杉元が、犯人の投稿した画像をもう一度表示する。やはり左上に表示されたのは、ファイル名と画像のサイズだった。メニューからプロパティを表示する。
ファイルの作成日時と更新日時が追加で表示されただけだった。
この調子なら他のものも可能性は低いだろうなと思いながらも、次々と画像を表示してはプロパティをチェックしていく。やはり表示内容に変化は見られなかった。
「何してんの?」
「いえ……もしかしたら位置情報が登録されているかと思って見ていたのですが、ダメだったようですね」
「あー。カメラで撮影した時に住所が記録されるやつね。そっか、それが入ってたら監禁場所が分かったんだ」
「まあ、そんなミスをする犯人たちではないでしょうから、望み薄なのは分かっておりましたが……うん?」
杉元の手が止まった。
「どしたの?」
松樹が画面を覗き込む。そこには「昼は唐揚げ。肉を食わせりゃいいん駄炉」という文とともに、唐揚げ弁当の写真がアップされていた。
「これは……多分コンビニのよよね。蓋の縁だけ留めるフィルムが近くにあるし」
「え? あ、そうなのですか」
「そこじゃないの? 何が気になったわけ?」
「ここです」
そう言って、杉元はコメントにある「駄炉」という字を指差した。
「ただの誤字じゃない。よくあることよ」
「そうですね。入力に慣れない人にはよくあることだと思います。そして、そんな誤字を入力機能のインプットメソッド――プログラムは覚えてしまうのです。実際に使われているものだと思って、学習機能が働いてしまうんですよ」
「あー、分かる。たまにやっちゃうのよね。一文字で変換しちゃって、次にそれやられちゃうの。……でも、それがどうしたの?」
「ミスは繰り返されるものなのですよ」
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