真夜中の捜査

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「それは大変でしたね……」しかしながら、杉元は確信していた。「ですが、福屋くんの言う通り、その彼が犯人のうちの一人と見て間違いないでしょうね。自分を採用しなかった警察に対する恨みが、警察をからかうような犯行に至ったと。その彼について詳しく教えてください」  そうして杉元はひと通りの情報を押さえた。  黒田勇樹、二十一歳。福屋と同じく池袋の高校に通っていたが、卒業を前にして暴行事件を起こして退学させられている。その時の相手はクラスメイトの男子生徒二人で、アニメの話で盛り上がっているのを煩わしく思い、殴りつけて怪我を負わせたという。  すぐ暴力を振るうため女も寄りつかなかったらしく、中学時代からの仲間がソーシャルアプリで女に成りすまして黒田にコンタクトを取ったところ、異常なまでにしつこくメッセージを送りつけてきて、最終的には付き合わないと殺すと迫ったという。  何事にものめり込む性格で、風俗嬢にハマった時は相手をモノにしようと全財産をつぎ込んだ挙句に逃げられてしまい、店に火を点けてボヤ騒ぎを起こしたという噂が流れていた。  前にかけてきた携帯の電話番号は変わっており、暴行事件をきっかけに家族が離散し家もなくなっているため、誰も行き先を知らないということだった。 「杉元先輩……大変な時なのに、こんな話してすいませんっス。でも、気になったんで……よろしくお願いします」 「ええ。後は任せてください。それでは明日も早いでしょうから……お休みなさい」 「失礼します」  福屋との電話を切ると、杉元は部屋に戻り手帳を持ち出してきて情報を整理しながら書き込んだ。  ふと見ると、松樹は座ったまま頭から突っ伏すように尻を突き出した形で寝ていた。器用なものだ。  いくら空調が効いているからと言って、このままでは体に障る。杉元は、その小さな体を持ち上げて布団へ仰向けに寝かせると、冷えないように布団と毛布をかけてやった。 「さて……どうすべきでしょうか」  黒田が犯人の一人であることは間違いない。杉元の勘はそう告げていた。だが、居場所も行方も分からないのだ。名前だけの相手を追う方法はあるのだろうか。  再びマイクロブログでおでんランチ千二百円のアカウントを開いた。直近では食べたものの写真と、その味についてコメントしているものしか見当たらない。普段と同じ投稿をして犯行を匂わせないようにしているのか。
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