おいしいは正義

真夜中の捜査

　そのうちの一枚を見てみた。
　場所は居酒屋だろう。金髪の女性と黒髪の男性がカウンターで寄り添って座っている、その背中が写されていた。「鼻の下を伸ばしてみっともない。日本は衰退の一歩を辿ってる。ありし日の精神はどこへ行った。鬼畜米英笑」とコメントが添えられている。
　太平洋戦争時の日本軍を賞賛しているのだろか。時代錯誤極まりない。そう思いながら、いくつか並んでいた画像の一つをタップして開いた。
「これは……」
　次の投稿を開く。映っていたのはイカのホイル焼きとカニ味噌の甲羅焼きだったが、杉元はその料理ではなく、画面左上に表示されていた二つの数字に目を奪われていた。
　それはファイルの情報ではなく、写真が撮影された緯度と経度の情報だったのだ。赤いピンのマークをタップして地図を起動させる。出てきたのは、中野駅前にある中野コウロという居酒屋だった。
　今度はタブレットで店舗のウェブサイトを開く。メニューを確認すると、イカのホイル焼きとカニ味噌の甲羅焼きが、おすすめの一品として大きな写真とともに紹介されていた。写真も住所も合致したのだ。
　息を呑む。次々と写真を表示しては確認していった。設定を見直していないのだろう。全ての画像に位置情報がついていた。
　一週間前からの行動を追う。何かを預けたらしく、千葉駅のコインロッカーが映っており、その次に駅近くの店で飲み食いをしたことが分かった。男性らしい二人の手とビールジョッキが映っている。
　それから少し飛んで、一昨日はファストフードでハンバーガーを二つ食べ、交番前の交差点で信号無視した歩行者を注意しなかったとして、巡査を遠目から撮影して罵っていた。これは東中野駅に近い場所だ。
　昨日はラーメンの画像とともにうまいのコメントを投稿しており、おもちゃを買い漁る人々を映しては嘆いている。中野サンプラザの中で撮影されたものだった。
　そして今日は一枚だけ。二十二時にどこかの室内でおにぎりとパンを映しており、「これでやっとだ」というコメントが添えられていた。
　場所は中野駅近くにある小学校跡地。
「松樹さん。松樹さん」
　もうすっかり熟睡しているらしい松樹を揺さぶって起こす。
「……もう食べられないよ……」
「何をベタな……。犯人の居場所が分かったのです。起きてください」
「ふぁ……はんにん？　給食ぶくろをとったのは、山中くんだよ、先生……」