真夜中の捜査

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「それもやり方次第だと思いますけどね」ちらりと松樹を横目に見やる。「職務の本質を成し遂げられるなら、組織のルールを変えてしまうのも一つだと思うようになりました。僕は組織に縛られていたのではなく、組織に属している自分、家族の中の自分というものに縛られていた気がします」  その言葉に、松樹が不思議そうに杉元を見つめた。 「……何か掴んだの?」 「はっきりとは。ですが、松樹さんを見ていてそう思ったのです。いい意味でも悪い意味でも参考になりました。生きるとはこういうことなのだ、と」  松樹がくすっと笑う。 「褒めてないわよね、それ」 「ええ。褒めて欲しいのですか?」 「今はいいわ。事件解決したらすんごいのをよろしく。美味しいものも一緒に」 「いいですよ。何なりとおごりましょう。無職になった僕の財布が寒くなることに罪悪感がないのなら」 「全くないわ」  笑い合う二人。  護国寺を過ぎ、学習院大学の付属高校脇を通って、車は真夜中の東京を走り抜けていく。落合、東中野と超えて、中野駅へ到着した。  コインパーキングを探して駅の近くで車を降りた二人は、バスロータリーのある南口へ向かって歩き出す。日中は学生や買い物客で賑わうこのあたりも、夜中の二時ともなれば人の姿はなく、車のライトすら時おり見かける程度だった。  架線下を超えてロータリーが見えてきたあたりを右に曲がる。少し坂になった道を昇っていくと、左手に大きな建物が見えてきた。 「……ここですね」  雲の合間からほんのりと差し込む月明かりに照らされて、窓のたくさんついた建物が不気味にそびえ立っているのが見える。  杉元は足を止めて松樹を振り返った。 「学生時代に傷害事件を起こした男です。恐らく同類がもう一人。彼らは和洋菓子本舗からの逃走時に躊躇することなく人を轢きました。ここからは本当に危険です」 「だからついてくるなって言いたいんでしょ?」 「そう言っても無駄ですよね? なので、僕の後ろを離れないでください」 「いざという時は守ってくれるんでしょ?」 「何の因果か、この一週間でかなり親密になってしまいましたからね」 「何、その捨て猫を拾ったみたいな言い草。そこは、まだ警察官だから一般人を守る義務がある、とか言ってくれたほうが格好よかったのに」  二人は小さく笑いながら、入口らしき場所に向かった。
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