真夜中の捜査

20/28

81人が本棚に入れています
本棚に追加
/212ページ
 校門に差し掛かったところで二人の笑みが消える。黒いペンキで塗られた鉄製の校門が、僅かに開いているのが分かったからだ。  誰かが侵入している。目に見えないところで蠢いていた何者かの、その影を見たような気がして、杉元は生唾を飲んだ。  音を立てないように門を開き、敷地の中へと入る。ガラス越しに見えてきたのは、背の小さな下駄箱がいくつも並んだ昇降口だった。その脇にあったガラス製のドアも開いていたため、ゆっくりとドアノブを引いて中へ入る。  月明かりは届かないらしく、廊下には暗闇が満ちていた。真夜中の冷たい空気としんと静まり返った空間が、嫌でも緊張を掻き立てていく。  通路は左右に通っていた。杉元は松樹の手を握って自分の裾を掴ませる。そして、右へ進んでいった。ぼんやり浮かんでいるのは非常口を示すランプだ。その緑色の僅かな明かりを頼りに、左手にあるドアを調べていく。  四つあった扉は全て閉まっていた。非常口のドアも開かずUターンする。昇降口を超えて進むと、今度は左右に扉が見える廊下に入った。足音を立てずにドアを見ていくが、どれも鍵がかかっている。 「上に行きます」 「うん」  小さく返事した松樹を連れて戻ると、忍び足で階段を昇り二階に入った。雲が晴れたのか、窓から差し込む月明かりが一階の時よりやや強くなっている。  杉元は耳を澄ました。物音はしない。ふと人の顔が見えたので驚いたが、掲示板に貼ってあるポスターのものだった。  アニメ調の女の子がペンと白紙を持っているものや、舞台の様子を映した写真などが飾られている。サブカルチャーの街らしく、ここのスペースを使って活動しているNPO法人はその手のものが多いようだった。  静かに足を運びながら、ドアを見ていく。室内から漏れる明かりはない。二つ、三つと見ていくと――、 「……!」  ほんの僅かだけ扉の開いている部屋が見つかったのだ。  足を止めた杉元は松樹にここで待つよう手で示し、ゆっくりとそのドアへ近づいていった。中の様子を伺ってみたものの、物音は聞こえてこない。振り返ると、松樹はその場で辺りを警戒するように見回していた。  杉元は、横開きするドアの取っ手をそっと掴んで慎重にスライドさせる。そして、半身を滑りこませるようにして中へ入った。窓から差し込む月明かりから、無人であることが分かる。
/212ページ

最初のコメントを投稿しよう!

81人が本棚に入れています
本棚に追加