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杉元は言って身震いした。海外で起きているような無差別大量殺人を計画している者が、この日本に、東京にいて、隠密裏に行動している。誰彼構わず殺そうとして。
松樹があたりを見回し、ふと上を見上げた。
「何かありましたか?」
「うーん。ここからじゃ見えない。ねえ、しゃがんで」
「また僕を踏み台にしようと言うのですか?」
「……あ、靴紐ほどけてるわよ」そう言った途端に、松樹がスマホを落とす。「そんなこと言ってるから、落とすのですよ。同じ手に何度も引っかかる僕だと思うのですか……ぐっ」
親切に拾ってやろうとしゃがんだ杉元。しまったと思った時には、背中に松樹が乗っかっていた。
「あんた、意外と引っかかりやすいわね」
「お、重い……」
「だから身長と体重は高校から変わってないって言ったでしょ。残念だけど、胸も変わってないのよね」
そうこぼしながら、松樹が棚の上にあった物を取って降りる。
「も、もうお忘れかも知れませんが、僕は、肋骨を折っているのですよ……」
胸をさすりながら立ち上がった杉元は、松樹の手にあるものをスマホのライトで照らした。それは、黒い粉の入った袋だった。
「黒色火薬ってヤツ? これって、もしかして西日暮里と池袋で爆発させた時のものじゃない?」
「そのようですね。他にはなかったのですか?」
「うん。でも、あの感じだと他に十袋ぐらい置けるスペースがあったわ」
杉元は棚の下にあるダンボールに目を落とした。箱いっぱいに入っていたであろう手榴弾も、隅のほうだけ不自然に減っている。爆破させたあとに逃げ惑う人々をマシンガンで乱れ打ちする光景が目に浮かんでしまった。
「分かっちゃった……」
松樹は悲しそうな目をすると、杉元の手を掴んで反対側の壁をスマホで照らさせる。
そこには、ポスターとチラシが五枚ほど貼られていた。
一枚は木崎あやと知り合ったと思われる航空自衛隊のイベントのもの。他の三枚は国内の団体が開いている政治に関する勉強会のチラシで、講演者の氏名に赤いマルがつけられていることから、その筋では有名な人物であることが分かる。
松樹が指さしたのは、他とは全く毛色の異なる一枚のポスターだった。
「これは秋葉原のアイドルのものではないですか。福屋くんが大好きな……」
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