真夜中の捜査

23/28

81人が本棚に入れています
本棚に追加
/212ページ
 原色の衣装を身にまとってそれぞれポーズを決めている若い女の子たち。年に一度だけのイベントらしく、行列の整理や誘導に至るまで全てアイドルたちが自分たちで行う、本当の手作りステージと書かれていた。  入場は明日の午後一時からで、二時からショーという予定が記されている。 「このイベントを妨害する……なんて、生易しいものではないでしょうね、きっと」  杉元の言葉に、松樹は息を呑んで頷いた。 「皆殺しよ」その単語に、杉元は背筋に冷たいものが走るのを感じた。「愛国者だから人一倍国を守りたい気持ちがあったんだわ。なのに、警察になることは出来なかった。代わりになったのが、アイドルオタクの後輩くん。きっと、その恨みはアイドルに向けられてたはず」 「だからと言って、皆殺しということは……ファンも、ということですか?」 「全員よね。腑抜けだの、日本を駄目にするだの言ってたじゃない」 「もしかして……」 「そう。大きな目的があったのよ。犯人たちは、これで日本を変えようとしてるんだわ」  とりあえずこの場に居続けるのは危険だとして、二人は個人情報の入った書類を数枚とモデルガンを持って部屋を出た。  音を立てないように小走りに廊下を進み、一階へと降りて、来た時と変わらず開けっ放しになっていたドアから外へと出ると、急いで車へと戻り、とりあえず家へと向かった。 「しかし……アイドルとファンを殺害して、どう日本を変えるのでしょうか」来た道を逆に走りながら、落ち着いたところで杉元が質問する。「こう言っては何ですが、ただの無差別殺人事件として捜査が始まるだけのような気がしますが」 「それだけならね。でも、もし犯人が……テロを名乗ったりしたら?」  その言葉に、杉元は絶句した。 「バラバラな人たちをまとめるには、共通の敵を作るべしって言うじゃない。もし犯人たちが国外のテロリストを名乗ったら、どうなると思う?」 「きっと、多くの人が団結するでしょうね」 「狙われたのがアイドルグループだったら、それは若い人たちに広まるわよね? ネットを駆使して、あっという間にその輪が広まっていくでしょ。あんたがやられたように」  彼らの描いた未来を垣間見た気がして、杉元はハンドルを握る手に汗をかいた。
/212ページ

最初のコメントを投稿しよう!

81人が本棚に入れています
本棚に追加