真夜中の捜査

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 イベントへ参加するために集まったファンの人々。彼らを迎えるアイドルたち。公演が始まったところへ雪崩れ込む武装した二人組の男。発砲音とともに悲鳴が上がり、客もスタッフも関係なく倒れていく。  そして彼らは何者かになりすまして、犯行声明をSNSや動画サイト、マイクロブログなどに投稿するのだ。それは非難、憎悪、無責任な称賛のコメントと共にネット上へ拡散していく。  マスコミは事件を大々的に取り上げ、連日放送するその現象に、多くの人々が巻き込まれていくだろう。  そうして法規制が議論される。世論に押され入国審査はより一層厳格になり、外国人に対する一般人のイメージがゆっくりと変化していくのだ。いつしか外国人排斥論も沸き上がってくるだろう。  愛国者たちの声が強くなっていき、諸外国から日本を守ろうという動きが起きていく。人数を増していく彼らは有権者という代名詞になり、無視できなくなった代議士たちが一部の要求を公約として掲げてしまう。  タレントや文化人も支持者を増やすために肯定的な意見を発信していき、それはブームとなって、カルチャー、サブカルチャーの枠を超えて日本の文化へと醸成され――彼らが理想としていたであろう、戦前の日本へゆっくりとではあるが、着実に回帰していくのだ。 「五千万は活動資金といったところでしょうか。武器の調達や潜伏中の生活費など……彼らの大きな野望が芽を出すまでの間の」 「だとしても少ない気がしないでもないけどね。でも、そんなところでしょ」 「……彼らにとっては、次の事件こそが大事だった。誘拐はプロセスに過ぎなかったのですね」 「大事の前の小事は気にも止めない。自分たちのしたことが影響して人が死んでも、逃げるときに人を轢いても……くそったれね」  松樹がやるせなくなったように深いため息をつく。そんな彼女に杉元はスマホを渡した。 「松樹さん。三國に電話をかけてください。事は急を要します」 「うん、分かった」  電話帳から三國健次郎の名前を探してコールする。呼出音が続き、十回ほど鳴らして一旦切った。 「疲れてて爆睡してるのかもね」 「いつもそうですが、それでも出てくれるのです。もう一度お願いします」  再度かけ直す。すると、五回ほど呼出音が鳴った後に、スピーカーにしたスマホからひどく小声にさせた三國の声が聞こえてきた。 「……新一か、どうした? 何かあったのか?」
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