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「いや、そうじゃなくてな……」三國が困ったように頭を掻いた。「猫を拾っちまってな。寮が動物ダメなの分かっちゃいるんだが、体がつらそうにへばっちまっててな。可哀想で……今はメシ食わせて寝かせてるところだからよ。起きて騒ぎゃしねえかと気になって」
「そうだったのですか。もしかして……?」
「そうだよ。ペイ・フォワードだ。ま、こんなんじゃ全然足りねえと思うが……」
その単語に松樹は首を傾げながら、ドアを眺めている。
「そんなことはありません」杉元は微笑みながら、スマホを取り出してその画面を三國に向けた。「その猫を起こさないためにも、早く済ませましょう。これを見てください」
それは杉元がスマホで撮影した部屋の写真だった。
「ここの床はリノリウムです。娘さんの生存確認のため犯人が送ってきた写真と似ていると思いませんか?」
「……確かに同じ灰色だったとは思うけどよ」
「それに、棚の下には火薬の袋も隠されておりました。一キロぐらいでしょうか。置いていったのは持ちきれなかった分と考えると――相当な量を持ちだしたことになります。西日暮里と池袋で彼らの爆破能力は証明されていたでしょう?」
「確かに……」
「先ほど説明した答えにたどり着くまでの経緯を自分でしたことにして、捜査本部へ報告してください。現場を見てもらえたら刑事課長も納得すると思います。明日のイベントには福屋くんも行くと言っていました。彼と彼の大事な人たちを助けると思って……」
「分かった」
頷いた三國は杉元のリュックを受け取った。そして次の段取りを話し合うと、すぐに刑事課長へ連絡し、出勤するため着替えに部屋へと戻っていく。
それを見届けた二人は車に戻り、杉元の家に向けて走らせた。
「ところでさ、三國さんが言ってたペイ・フォワードって何?」
「日本語で言えば、恩送りというものです。僕が松樹さんから何かしてもらったら、同じような親切を松樹さんではない誰かへする。そうすれば、他人を思いやる気持ちが次々に紡がれていくというものです」
「あー、なるほどね。ってことは、昔何かされたの? やんちゃしてて更生したとか?」
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