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「その父がいつも口にしていたのです。その分誰かに優しくしてやれ、と。三國もずっと言っていました。父から受けた恩を、誰かに送る。なので、日々恩を送ることを考えて仕事に励んでいるらしいですよ。なので猫を助けたのでしょう」
「素敵じゃない」
松樹がふっと優しい顔をした。
「人の嫌な面を見ることが多い職業ですから、きっとそういうことに飢えているのだと思います。実際……明日の午後には大惨事が起きるかも知れないことを知ってしまっているのですから」
「そうよね。何とかしなきゃ」
松樹が拳を握る。
「まずは現場に行くんでしょ? そこで何をするか考えてあるの?」
「いえ。特には」
「あっそう」苦笑いする松樹。それを見て笑う杉元。「緊張感ないわよね」
「この時間で頭が回ると思いますか?」
車は細い路地へと入り、見えてきた杉元宅の庭に停めて二人は降りた。
「あと十時間かあ。気が抜けるわ」
「そういうものです。きっと犯人たちも寝ているはずですよ。マイクロブログの更新もありませんでしたし。僕たちも寝て英気を養いましょう」
「そうね」
そうして杉元の家に着いた時には午前三時を回っていた。
二人はあくびをしながら、音を立てないようゆっくりと玄関へ入っていった。
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