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事件解決
土曜日の秋葉原駅前は人で賑わっていた。
電気街口には数人のグループで談笑している人たち、友人や恋人を待つ男女、そして紙袋を手に戻る人やこれから買い物に向かう人たちが、小さな点となってめまぐるしく動いている。
そんな中で一際目についたのは、駅からほど近い場所にある劇場前に並ぶ人だかりだ。二十人ぐらいを横にずらりと列を組んだ二百人ほどの塊は、上から見下ろすと学校の校庭で退屈な校長の話を聞くために待っている生徒たちのようにも見えた。
「すごいわよねえ。まだ一時間前でしょ? 人気あるのは知ってたけど」
そんな光景を、二人は駅の改札からではなく、総武線のホームからその様子を見下ろしていた。
小学校跡地の捜索を受けて捜査本部も犯人たちの危険度が高いと判断したらしく、今日のイベントが襲われると想定して五十人の捜査員を周囲に配置したと、三國から連絡があったのだ。
湯島がどこで監視しているか分からない。また見つかると面倒なことこの上ないと考えた杉元は、自ら手を出すことはできないが事態の行方を見守ることのできるこの場所を選んだ。
「へえ。男ばっかりかと思ったけど、女もけっこういるのね。半々ぐらい?」
「若い女性にも人気があるらしいですからね」隅にはカメラを構えたテレビクルーのようなグループもいるのが分かる。「福屋くんは毎週のように女友達を作ってくるので、同期の間では合コンセッティング係として名を馳せているのだそうです。それにけっこうモテるとか」
「はあ。あの浮かれまくっちゃってる人がねえ……」
二人の視線の先には、頭に名前入りのハチマキを巻き、真っ黄色のハッピを着て両手に持った大きなイラストつきのうちわで楽しそうに仲間と踊っている福屋の姿があった。
「何でも、応援の時の声の大きさと踊りの巧みさが受けているのだそうです」
「緊張のかけらも見らんないけど。ホントに伝わってんの?」
「捜査本部から特別に指令が下ったと聞いておりますので。まあ、あの格好で落ち着かれたら違和感しかありませんからね。お芝居だと思います。多分」
行列の賑やかな声を聞いてか、杉元たちと同じように数人がホームからその様子を見下ろして楽しそうにお喋りしている。
旅行に行くのか帰ってきたのか、松樹と同じようにキャリーバッグを引く男の姿も視界の隅に入った。
「私たちも違和感ないかしら。カップルとして」
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