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「まあ、男女で年も近いですしで、大丈夫だと思いますよ」
杉元は自分と松樹の格好を改めて確認した。ジーンズにワイシャツ姿でリュックを持った自分は問題ないだろう。それらしく装うと話していた松樹は、最初に出会った時と同じく、ベージュのカーディガンに床までつきそうなレイヤードスカートという姿だった。
しかし、その傍らにはカップルの荷物らしからぬ物が鎮座している。
「どうしてキャリーバッグを持ってきたのですか? うちに置いておけば良かったでしょうに」
「だから、これを見届けたら預けてある服を取りに行くって言ったでしょ。スカートの血が落ちないから替えたいのよ」
「送ってもらえば良かったではないですか」
「送料かかるじゃない。私はあんたと違ってお金に余裕がないの。節約できるところはするのよ」
「変なところで頑固ですよね」
「へーへー、何とでも言ってちょうだい」
すると、二人のやりとりが痴話喧嘩に見えたのだろうか。何人かちらりとこちらを振り向いたのが見えた。
結果的にはカップルらしく見えたということだろう。それに気付いた二人が苦笑する。
「あと三十分以上もあるけど……いたって平和ね」
そう松樹が退屈そうにあくびをした時、下の行列から歓声が上がった。二人が目を凝らすと、色鮮やかな衣装に身をまとったアイドルたちが出てきて、チラシを手配りしはじめたのだ。
周りを警備するように配置されていたスタッフたちが、列を乱さないよう声をかけている。
「あんたの後輩、大興奮じゃない」
「ああ、あんなに身をよじらせて……これを待ち望んでいたようですから、仕方ないとは思いますが……それでも空手で鳴らした彼があんなに……」
杉元が苦笑いしながらその様子を眺めていると、突如として視界を何かが遮った。大量で、はらはらと散りながら落ちていくそれは――、
「金だっ!」
「万券だ!」
紙幣だった。目の前を、まるで紙吹雪のようにして一万円札が風に揺られ、イベント待ちをしている行列のあたりへと降り注いでいったのだ。
アイドルたちが騒ぐ。それにつられて声をあげる客たち。あたりにいた人々が紙吹雪のほうへと歓喜の声をあげながら駆け出していく。
「い、一体……?」
見覚えのある男たちがその騒ぎへ飛び出していく。
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