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「誰か! こっちよ! 黒田が!」
松樹が塀から身を乗り出して叫ぶ。応じたスーツ姿の男数人が、駅に向かって駆け出した。
「ねえ、誰か!」
今度は振り返ってホームにいる人たちに呼びかけるも、助けに入ろうという者はいなかった。皆、突然のことであっけにとられて立ち尽くしているか、スマホで撮影していた。
能面の男が銃を取り出して松樹に向けた。
キャリーバッグの影に身を隠す。と同時に、杉元が能面の男を掴んで引きずった。発砲してすぐ、ホームの屋根から跳弾する音があたりに響く。
あまりの恐怖で、松樹は目を見開いたままホームにへたり込んだ。
「警察が来ます……もうやめなさい!」
マシンガンを拾おうとした黒田を背中から羽交い締めにした杉元。能面の男がナイフを逆手に持って、杉元の背中を狙った。
「後ろーっ!」
黒田を突き飛ばすようにして身をよじりながらナイフを避ける。揉みあうようにして転んだ杉元の顔に向けて、今度は能面の男がナイフを捨てて拳銃を向けた。
地面から跳ね上がるようにしてその手を蹴り上げる。モデルガンがホームの下に落ちていった。
「てめえ……!」
立ち上がろうとした杉元の頭めがけて、黒田が手に持ったマシンガンの銃床を叩きつける。鈍い音がして額から血が流れた。咄嗟にその銃口を掴んで立ち上がる。
その隙を狙って、能面の男がナイフで杉元を刺そうと突き出した。気づいた杉元が片手でそれを弾こうとして二の腕を切り裂かれ、血が飛び散る。
「誰か! 誰か助けてよ!」
松樹が涙声で絶叫した。
だが、野次馬たちは動かない。マジモンのマシンガンだ。売れるから撮っておけという声が聞こえてくる。
杉元は、マシンガンの銃口ごと黒田を押し倒すように突き飛ばし転ばせ、
「うおおおお!」
振り返り、またナイフを振りかざそうとしていた能面の男めがけて、右の拳を放った。
能面が割れ、男がホームへと倒れこむ。目つきの鋭い男の、怒り狂った顔があらわになった。
その背後で黒田がマシンガンを構えている。気配に気づいた杉元は身をかがめながら足払いを食らわせた。
だが、勢いがなかったためよろめいた黒田の銃口が杉元の腹に向けられた。咄嗟に銃身を掴んで地面へと向けた瞬間に、何十発もの弾が跳弾し、ホームを削っていく。
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