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杉元は歯を食いしばりながら、そのまま黒田に頭突きを食らわした。だが、黒田は銃を離さない。その間に立ち上がっていた目つきの鋭い男が、杉元の背中めがけてナイフを振りかざした。
身をよじりながら避ける。
距離を取れば銃で撃たれるし、近づけばナイフの餌食になる。このままでは埒が明かない。
「誰か……!」
杉元が叫んだ時。松樹がキャリーバッグを開けて、手のひら大ほどの赤い缶詰を取り出した。
何をするのかと思った瞬間、松樹はその蓋を開けながら、
「くらえーっ!」
缶詰を三人に向けて投げつけたのだ。
ガスを噴出させながら、その缶詰は放物線を描くようにして三人の頭上へと飛んでいく。ホームにいる誰もが、その物体を見つめていた。
缶詰から飛び出すようにして、茶色い液体が三人に降り注いでいく。太陽の光を浴びてキラキラと光る濁った雨のようなそれに混じって、砕かれた小魚のような身がまるで踊るようにして撒き散らされていった。
三人の頭や顔、肩が茶色く染まる。ぼとぼとと音を立てて彼らのいたるところに張り付く小魚の身たち。
その瞬間――争っていたはずの三人の動きがピタリと止まった。
そして。
「うげええええ!」
「ごほっ、ごほっ! 何ですか、これは……うぉほっ!」
黒田は手にしていたマシンガンを落として激しくむせ始めた。同じようにひどく咳き込みながらも、杉元はよろめきながらそのマシンガンを手で振り払うようにしてホームの下へと落とす。
「くっせえええええええ!」
目つきの鋭い男は、顔面に被ってしまった液体と小魚を手で拭いとろうとして吸い込み、そう叫ぶと、白目をむきながら跪いて失神した。
「目がしみるううう!」
黒田がのたうち回っている。
「ま、まふゅきはん……これは、いったひ……」杉元がそう声にならない問いかけをしようとして、生ごみを何十倍にも濃縮したような匂いを肺に収めてしまい、「……うげ、うげぇぇ……」
と、吐いた。
それを見た黒田も体を丸めたかと思うと、涙を流しながら嘔吐する。
大惨事だった。
「新一――っ! ……な、何だぁ!?」
そこへ駆け込んできたのは、三國を先頭にした四人の刑事だった。
地上にも聞こえていたであろう銃声と爆発音からは想像できない光景が目の前に広がっていることに、誰もが驚いていた様子だったが、すぐにその臭気を感じ取って松樹を見やる。
「何があったんだ?」
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