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「危なかったから、最終兵器を使ったのよ。殺人ガスとかじゃないから大丈夫。ほら、いいから早く犯人を捕まえてよ」
「三國、行くぞ」
鼻をつまんだ刑事が三國の肩を掴んで、倒れている三人の元へと向かう。残り二人の刑事も後に続いて黒田と目つきの鋭い男に手錠をかけようとしたが、その最中に深呼吸してしまったのか、吐き出した。
「うっ、うふぉっ……し、新一……大丈夫か? 手伝ってくれ……」
「え、ええ……」
また吐き気がこみあげてくる。だが、それでも杉元は職務意識を取り戻して、三國ともう一人の刑事を手伝って、臭気で涙を流しながら黒田に手錠をかけた。失神している男は既に手錠がはめられている。
この手で犯人を逮捕することができた。
満身創痍で異臭の漂う身だが、杉元はその達成感に思わず天を仰いだ。
その瞬間だった。
額から垂れてきた液体が鼻筋を通って鼻の穴に入り、
「う……おっ……」
その臭さに、杉元は思わず口呼吸をしてしまい、脊髄反射で息を深く吸ってしまった結果、現場の臭気をその肺いっぱいに収めて――彼は意識を失った。
目を覚ますと、そこは病院のようだった。
ベッドの上で左腕に点滴がつながっているのが分かる。だが、病室ではなく処置室のようで、様々な器具が収められた棚や、机、椅子の類が見える。ドアについた窓からは、照明の落とされた薄暗い待合室のような空間が覗けた。
壁にかかっている時計を見る。午後八時を過ぎたところだった。
ふっとその視界が遮られる。
「あ、起きられたのですね」そう声をかけてきたのは、見覚えのある女性の看護師だった。「三日連続で来られた刑事さんは、杉元さんぐらいですよ」
そう微笑んだのは、木崎が暴れた時に助けた看護師だった。
「それは……面目ありません。特に問題はないでしょうか?」
すると、看護師が苦笑する。
「肋骨は折れたままで胸のあたりが腫れてきてますし、頭は五針、左肩と右腕は二十針の大怪我だったんですよ? 早ければ退院は明日ですけど、先生は一週間は安静にするようにって言ってましたから」
結構な怪我をしていたらしい。よくよく見れば、胸には新しい固定ギプスが巻かれ、腕と肩は包帯でぐるぐる巻きにされている。
「でも、何よりすごかったのは、この臭いですよ」
「ああ、そう言えば……」
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