事件解決

7/20

81人が本棚に入れています
本棚に追加
/212ページ
 薬品の匂いに混じって、僅かに腐臭を感じる。聞けば、犯人の二人もこの病院に搬送されてきたらしく、そのひどい臭いのために携わった医療スタッフの服は廃棄、この臭いを他の部屋に移さないよう、この処置室で手当を行ったという。  部屋は完全に消臭するまで閉鎖するしかないと、病院の職員は嘆いていたらしい。 「警察の方はこちらにおりますか? できれば、荒川中央署の方ですが」 「ええ、起きたら呼ぶよう言われてましたので。伝えてきますね」 「お手数をおかけします」  看護師がぱたぱたとサンダルを鳴らして病室から出て行く。  上半身を起こすと、ひどい痛みが胸に走った。それに両肩から下に引きつるような感覚を覚える。ここに来て、ようやく自分が怪我をしていることを杉元は実感した。  それでも見たいものがあったため、点滴を引き抜かないように動き、パイプ椅子の上に置かれていた杉元の私物の中からスマホを手に取る。  片手でロックを外すと、すぐにブラウザを立ち上げてニュースサイトを開いた。 「うわ……」  杉元は思わず絶句してしまう。国内ニュースの欄は上から下まで、全て秋葉原での無差別銃撃事件が報じられていたからだ。  主要各紙は元より、ネット専門のニュースサイトやバイラルメディアも含め、ありとあらゆるメディアがこの事件を伝えていた。  そして何より杉元を驚かせたのは、ある記事のタイトルだった。  「中国軍の陰謀か、真偽問われる真相」――ウェブページを開いてみると、秋葉原で起きた事件の直後に、とある犯行声明がマイクロブログ上に投稿されたというものだった。  その記事に転載されていた全文を読む。  自分たちは中国人民解放軍の工作部隊に所属する正規の軍人であり、共産党の命を受けて日本を衰退させるために工作活動を行っている。秋葉原での粛清は計画における第一段階であり、これから次々と破壊活動を行うべく、全国に潜伏している千人の同志たちが、激しい活動を始めるだろう。  日本人の崇拝するアイドルを次々と殺し、アニメやゲームといった文化を破壊して、最終的には天皇を殺害する。この作戦を、世界中のどの人種よりも劣る日本人たちは止めることはできないだろう――。  投稿者のアカウントは既に削除されたようだったが、その画像はネット中に広まっており、名前を確認することができた。おでんランチ千二百円だった。 「まだ臭えな、ここ」
/212ページ

最初のコメントを投稿しよう!

81人が本棚に入れています
本棚に追加