81人が本棚に入れています
本棚に追加
/212ページ
看護師が呼んできたのだろう。スーツ姿の三國が鼻をつまみながら処置室へと入ってきた。
ベッド脇に立てかけてあったもう一脚のパイプ椅子を開いてそこに腰を下ろす。
「怪我は大丈夫なのか? まだ動けないように見えるが」
「少々痛みますが、大丈夫です。明日退院できるそうですが、一週間はゆっくりしていろとのお達しでした」
「だろうな、あれだけの大立ち回りじゃ」
「僕のことはどうでもいいのです。それより、どうなったのですか? 色々と聞きたいことがあります」
「それよりだな……」
苦笑する三國。
「――何よ。一緒にいた彼女のことは心配じゃないわけ?」
と、怒りながら処置室のドアから入ってきたのは、松樹だった。不満そうに唇を尖らせながらも、中へと入ってきた彼女は両手に持っていた紙袋をベッドの上に置いて、中から服を出す。
「あの時着てたのは切られちゃったり汚れちゃったりでもうダメだから、新しいの買ってきたのに。おじさんも後から来るって言ってたわよ」
「それはありがとうございます。松樹さんのことは忘れていたわけではなくて、無事なのを知っていましたから」とフォローしつつ、この異臭を嗅いで、まず聞くべきことを思い出した。「松樹さん。あれはいったい何だったのですか? まさか違法な薬物などではないですよね?」
出した服を紙袋にしまいながら、松樹がさらにふくれる。
「みんなそう言うのね。駅の人にも警察にもすっごい文句言われたし……でもさ、あれ投げなかったら、もっと被害が出てたのよ?」
頬を膨らませる松樹を見て、三國が苦笑いした。
「あんたも新一もよくやってくれたよ。少なくとも俺は感謝してる。あの臭い以外はな」
「また……」松樹がため息をつく。「あれはシュールストレミング。スウェーデンの世界一臭いって言われてる魚の缶詰なのよ。くさやの倍ぐらい臭いって有名でね。最近、缶詰が改良されて常温でも持てるようになったから、来週の奇食イベントで試食してもらおうって先月買ったのを奮発したってのに……」
「そうだったのですか」
あとで弁償してあげようと、杉元が頭を下げる。そして、次は三國を振り向いた。
「劇場前はどうなったのですか? 福屋くんは? 被害の状況はどうなのですか?」
その質問を受けて、三國の表情が翳る。
「福屋は無事だったけどよ……ホント、ひどいことになっちまった」
最初のコメントを投稿しよう!