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杉元は助けを求めるように三國を振り向いた。当の三國は二人のやりとりを楽しんでいたらしく、顔をニヤつかせながら口を開く。
「こいつが好きなのはいちご大福なんだよ」
何とも評価しがたい答えだったのだろう。松樹は眉間に小さな皺を寄せたあと、間を置いて杉元を見つめた。
「へえー……いちご大福、ねえ……」
理由を言えという松樹の視線に耐えきれず、杉元は諦めたように口を開いた。
「近所でいちご大福のいいお店をネットで探していた時に偶然見つけたのですよ。確か一番最初の記事がいちご大福だったはずです。町屋の洋菓堂を紹介していましたよね?」
すると、松樹は意外だというふうに少し目を見開いた。
「あー、そう言えばそうね。初めての取材ですごい緊張したっけ。懐かしいな」
「よくある、写真と一言二言だけ添えたようなものではなく、しっかりとした文章でお店のことや商品開発の経緯などもまとめられていて、読み物としても興味深かったのでブックマークさせていただいたのです。……まあ、いちご大福目当てですが」
「またずいぶんピンポイントね。何だか意外」
仕事を褒められてまんざらでもなくなったのか、先ほどよりは表情を柔らかくさせた松樹がシステム手帳のリフィルをめくっていく。
「……あったわ。奇抜な商品とか出してて、けっこう楽しめるのよ」
そして再びスマホを手に取った松樹は自分のウェブサイトの記事を表示して杉元と三國に見せた。
それは和洋菓子本舗のフルーツ羊羹というタイトルの投稿記事で、章立てされた文章が並び、その合間に店の外観や菓子の写真が差し込まれていて、確かに素人ではない内容が伺える。
松樹は人差し指で画面を下にスクロールさせていき、店の所在地と連絡先の記された場所を見せた。
「これで充分でしょ?」
「ああ、助かったよ。ありがとう」
三國がメモを取り、それほど実りがあったわけでもない事情聴取は終わりとなった。そして二人は署の入口まで松樹を送っていく。
「ああ、そうだ。松樹さん。連絡先を教えてもらっていいか?」
別れ際に三國がそう切り出した。
「……どうして? もう話すことなんてないと思うけど」
「まあ、念のためかな。今後の捜査でまた何か聞きたいことが出てこないとも限らないんで」
「……別にいいけど」
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