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「ああ。署長はもう見ちまっててな、どうしてあの場にいたか後でここに来て聞くつもりらしい。……お前を辞めさせないよう直訴してみたんだけどよ……軽くあしらわれちまった」
ありがとう、と杉元が頭を下げる。
「もういいのです。それより、健次郎まで疑われていたりはしていませんか?」
「多分な」
「おかしいわよね」憤ったように、松樹が鼻を鳴らす。「だって、たまたま立ち会ってテロを止めようとしただけじゃない。ネットのコメントじゃ、あんたへの賛辞はすごいもんよ? 犯人相手によくやった、って。元自衛隊員に違いないとか、プロの格闘家じゃないか、とか」
「ははは……」
空笑いする杉元に、松樹が優しい笑顔を向ける。
「木崎さんとやった時はすぐのされちゃったのに……すごいわよね。偶然じゃないんでしょ? 鍛錬してるとか言ってたけどさ、何かやってるの?」
その問いに、三國が非難めいた視線を送ってくる。
「言ってなかったのか?」
「い、いえ……」
「それってやんちゃしてた時のこと?」松樹も訝しげに杉元を見やった。「三國さんの武勇伝は聞いたわよ。一人で二十人ぐらいのしたんでしょ? 自由業の人たちも。もしかして、あんたも何か武勇伝あるの?」
三國の視線が一段と鋭くなった。
「お前、また俺だけを悪者に……」
「い、いえ……そういう訳ではありません。ただ、事実の一部を割愛しただけでして……」
「何なのよ、一体」
言いにくそうに息を呑んだ杉元を見て、三國が口を開く。
「確かにやんちゃしてたのは俺だ。その武勇伝とやらも大筋じゃ間違っちゃいない。だけどよ、中学ん時、二十人に囲まれた中の十人はこいつがやっちまったんだ。あとで出てきた五人のヤクザも、こいつが一人で半殺しにしちまった」
「え……それホントなの?」
松樹が怪訝そうに見やる。当の杉元は、恥ずかしそうに俯いた。
「何にも言ってなかったんだな。こいつ、空手じゃ全国レベルでな。中学ん時じゃニュースになったぐらいだったんだ。でもよ、警察に入るからって辞めてな」
「そうだったんだ……」
「五人のガキに襲われた時も、力任せに殴っちまったら死んじまうだろ? だから威嚇射撃しようとしたら、投げてきたナイフを避けようとして当たっちまったんだ」
当時のことを思い出した杉元が、反省するように眉を下げて顔を上げた。
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