81人が本棚に入れています
本棚に追加
/212ページ
「彼らは本気でした。でも、僕も本気になってしまえば、殺してしまいかねません。そうでなくとも、僕は力を抑えられなくなるので……」
松樹がはっと気づく。
「もしかして木崎さんの時も?」
「パワーはありましたが、動きは鈍かったのです。殴ってしまえば良かったのですが、殺してしまったらどうしようと考えて、手が動きませんでした」
「秋葉原でもそうだったんだ。犯人を殺しちゃったら、罪を償わせることができないから?」
杉元はゆっくりと頷いた。
「松樹さん。新一に悪気はなかったんだよ。許してやってくれ」三國がそうフォローしてくる。「色々努力したんだ。力をコントロールするためにゃ物腰を柔らかくするべきだとセミナーで聞いちゃ、馬鹿丁寧な口調に変えたり、パソコンやりゃ冷静になれると聞いちゃ、独学でプログラムまで覚えたり」
恥じ入る杉元をじっと見ていた松樹だったが、
「……!?」
両手を開いたかと思うと、ゆっくりと杉元を抱きしめた。
「ま、松樹さん?」
「あんた、ホントにえらかったわね。人の鑑だわ」
そして、その唇にキスをする。
不意を突かれた杉元は思わず胸の鼓動が高鳴るのを感じていた。女性とキスするのは初めてではなかったが、今まで感じたことのない、何らかの感情が心の中に芽生えた気がしたからだ。
ゆっくりと顔を離した松樹は慈愛に満ちた表情をしていた。そして、自分がしたことに気づいたように顔を赤く染めて俯く。
「け、健次郎……これで事件は無事に解決したと見ていいのですよね? 誘拐事件も彼らの犯行だったことが分かっているわけですし」
心の中を覚られないよう杉元は務めて冷静にそう問いかける。
「それがそうでもねえんだよ」
二人のやりとりを見て苦笑いしていた三國が呟く。松樹も気持ちを落ち着かせたように顔を上げた。
「あやちゃんの誘拐事件について聞いたら、アリバイがあるとか言い出したんだって」
「アリバイ、ですか?」
「もうその時点で心神喪失のマネなんて馬鹿げた話なんだが……誘拐について聞いたら、その時間は友達の店で飲んでたとわめくように言ったんだと。前の日に偶然会って同じぐらいの時間に飲ませてもらって、次の日も――実際、その友達とやらを探して連絡したら、同じ話をしだしてな」
「お店というからには他の店員とか客もいたのでしょう?」
最初のコメントを投稿しよう!