事件解決

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 ずかずかと部屋の中へ入ってくると、一治はレジ袋を松樹に預けて湯島の前へ立った。 「二十五年経ってもまだ忘れられないか。よほど俺が憎いと見える」  一治は杉元からペンと便箋を奪い取ると湯島に押し付け、その目を睨み付けた。湯島も眉間に深い皺を刻みながらその視線を受ける。 「何のことだ? お前は関係ない。組織のルールを破ったのは、他でもないお前の息子だ。その身勝手な行為のために、署の連携が乱され、一般人が危険に巻き込まれかねない状況を作った。ルールを破った者には罰が与えられる。当然だろう?」 「非番の日に現場にいたことが罪か? 犯罪が起きるかも知れない、それに気づいてのうのうと遊べるバカこそ警察にはいらないんだ。エリートのお前はそうやって出世してきたかも知れないがな」  湯島の眉がぴくりと動く。 「交通課のこいつが捜査協力したことも罪か? 手が足りなきゃどこだってそうしてきただろ? 目の前で人が殺されてるってのに、自分は交通課だから何もしない。……それがお前の言うルールなんだな?」 「それが屁理屈だというのは刑事課にいた貴様が良く知っているだろう。捜査はチームワークだ。それを乱す者がいたら貴様だって同じことをしていたはず」 「クソの役にも立たなきゃぶん殴ってたさ。だが、こいつは何をした? 四件の連続通り魔の容疑者を突き止め、その娘を誘拐した犯人のアジトも突き止めた。秋葉原であの二人相手にこいつが大立回りしてなきゃ、あと何人が死んだと思う?」 「結果論だ」湯島が冷たく言い放つ。「警察は結果が全てという民間企業とは訳が違う。事件解決に至るプロセスが正しいものであってこそ、結果が尊重され、司法で正しい裁きが下されるのだ。そこに不自然な経緯やルールから逸脱した行為があれば、結果の正当性が崩れ、市民からの信頼を失うことになる。今後、この件が公になれば相手の弁護士も捜査の妥当性に切り込んでくるだろう。正しい判決が下されなかった時、それを市民が受け入れられると思うのか?」 「教科書通りの捜査で犯人が逮捕できてりゃ、俺たちはいらないんだよ。それこそパソコンにでも任せておきゃいい。そうじゃないグレーの領域があるからこそ、人間が必要なんだろ? それにこいつは法を犯しちゃいない。それが問題だと言うんなら、どこへだって出てやろう」
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