エピローグにはまだ早い

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「ブレーンがいるということですか? 誘拐までの」  松樹が頷く。 「アタリはついてるの」 「え……ええ? 本当ですか?」  その真剣な目が冗談ではないことを物語っている。 「でもね、決め手がないの。ただの想像で終わっちゃってて」 「誰なのですか?」 「うーん……」  じらしているわけではなく、本当に自信がないのだろう。松樹が言いよどんでいると、こちらへ向かって駆けてくる靴音が聞こえてきた。 「あ、先輩。ここだったんスね」  それはダークスーツ姿の福屋だった。ネクタイも黒いものを締めている。 「ああ、福屋くん。無事だったそうで何よりです。……でも、お仲間とアイドルの方々は残念でしたが」 「女の子たちは軽傷だったんスけど、俺も知ってる応援隊の一人が亡くなりまして……休みをもらって、これから通夜に行くとこなんス」 「そうだったのですか……それで、僕に何の御用でしょうか?」 「改めてお礼を言いたくて……」すると、福屋は足を揃え背筋を伸ばすと、深く頭を下げた。「本当にありがとうございました。先輩たちがあいつらを止めてなかったら、もっとひどいことになってたかと思うと……」 「福屋くんも分かっているでしょう?」杉元も立ち上がってその肩をさすりながら、頭を上げるよう促した。「謹慎中の身ではありましたが、僕はやることをやったまでです。もう少しうまく立ち回れたら、その方も亡くならずに済んだのかも知れません」 「でも……俺たちは感謝してるんス。本当にありがとうございました!」  そう言って、また頭を下げる。 「なので……俺にできることがあったら、何でも言ってください。何でもしますから」  福屋の目も真剣だった。恐らくは自分が退職の瀬戸際に立たされていることを知っているのだろう。  だからこその申し出なのだとは思うが、そんな重荷を彼に背負わせられない、と杉元は苦笑した。 「お気持ちだけいただいておきますよ。ああ、そうだ。前に言っていたラーメン屋に連れてって下さい。僕はしばらく無職になる予定なので、福屋くんの都合に合わせられますから」  ラーメンという単語に松樹が反応した。なぜか、その目が徐々に輝いていく。 「了解っス。全部おごらせてもらいます!」 「楽しみにしていますから」 「はい! 休みが分かり次第、メールするっス! それでは!」
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