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また一礼すると、福屋は病院の前に止まっていたタクシーに乗り込んで駅のほうへと消えていった。
「……よし、私たちも行くわよ」
松樹が腰を上げる。
「どちらにですか?」
「三國さんとこ」
「健次郎に何か用があるのですか?」
「あるから行くんじゃない。もしかしたら謎が解けるかも知んないの。早く車に乗って」
「え? 健次郎が、ですか?」
「お見舞いに行ったら、一昨日の夕方に退院したって聞かされたのよ」
「……はあ? 健次郎は怪我していないはずですが」
「ラーメンについて聞かなきゃいけないの」
訳が分からない。松樹に急かされるまま、杉元は持ってきてもらった自分の車に乗り込むと、三國の部屋がある寮へ向かった。
十分ほどして到着した寮の入口脇に車を停め、一○六号室の前に立つ。
「いないと思いますが……」
杉元が半信半疑でインターホンを押すと、中から声がしてそのドアが開いた。
「きっと頼んだ布団だろ。もうそれぐらい持てるし大丈夫だ……って……?」
中から顔を出したのは、三國ではなく女性だった。
「あ……有川さんですか?」
杉元が驚きながらそう尋ねると、彼女も目を丸くしながら小さく頷いた。
ぼろぼろだった服は白いスカートにピンクのカーディガンに変わっており、ごわついていた長い髪はふわりと流れるような輝きを見せている。
あの四畳半にいた時とは別人のような格好をしていたのだ。ただ一つ、左手首にある包帯だけが、あの部屋の住人であったことを物語っている。
「あ、あんたら……」
血色が良くなり何歳も若返ったような顔で、杉元と松樹を交互に見ては頬を耳元まで真っ赤に染めていた。
「有川さん。やっぱりここだったんですね」
「な、ど、どうしてあんたらが……?」
「おい、どうした? 布団じゃなかったの……か?」後ろからやってきたスーツ姿の三國が有川の肩越しに二人の姿を見て――同じように目を丸くしていた。
「新一。それに松樹さんも……」
「有川さんの病室に行ったら一昨日の夜に退院したって聞いたのよ。んで、ここだろうなって」松樹が微笑む。「有川さん、元気になったみたいで良かったですね」
「あ、う、うん……ありがと」
どうしていいか分からないように有川が三國をちらちらと見やる。
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