エピローグにはまだ早い

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「いや、その……」その三國が頭を掻きながらやや俯きつつ説明する。「こいつから退院するって連絡が来てな。行くところがねえんだと。聞いたら、あのアパートの家賃を滞納してて大家に部屋を閉め出されたんだとよ。それにあそこには帰りたくねえって言うから……一昨日から泊めててな」  松樹がにやりと笑う。 「そうよねえ。拾った猫は部屋の電気つけないもんね」  バレてたのかと三國が顔に手を当てて隠した。すると、有川も苦笑いする。 「あたしを捨て猫呼ばわりしたのは、三國さんが初めてだったよ」 「悪かったよ。だって、あれだけキツく言ったお前を家に泊めてるなんて……恥ずかしくてよ」  しきりに照れる三國。そんな彼を見た有川は嬉しそうに微笑んでいた。 「ああ……一応言っとくが、寮長には事情も説明してあるからな。ただの連れ込みじゃねえぞ? それに、ちょうど食堂のスタッフが足りてねえってことで、来週から住み込みで働くことになったんだよ。調理師免許も持ってるしな」  その話を聞いて、松樹がおーと声を上げる。 「元有名ラーメン店の腕前をここで味わえるのね。いいなー。あ、そっか。それで物を揃えてたわけなんですね」 「ああ。今日は午後から仕事にしてもらって、必要なもんを買い揃えてたんだよ」  ようやく気持ちが落ち着いたのだろう、空咳をした三國が杉元を見つめる。 「で、新一。何の用だ?」 「僕ではなくて、松樹さんが用があるらしいのです」 「そう。でも三國さんじゃなくて、有川さんに」 「あたしに?」  巡ってきた話にきょとんとする有川に、松樹はリュックからスマホを出してその画面を見せた。 「有川さん。このラーメンに見覚えありませんか?」 「これか?」  スマホを受け取った有川が、目を細めて画面を見つめる。その肩越しに杉元も覗き込んだ。ディスプレイには、犯人たちが木崎あやに食べさせていたというラーメンの画像が表示されている。  どうやら事件のことではないと思ったらしい三國は、片付けてくると言って部屋の中に戻っていった。 「ネギ、メンマ。この黄色い泡と豆は……卵と納豆。納豆ラーメンだな」 「やっぱり」その答えに、松樹が頷く。「どこのお店か分かります?」
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