エピローグにはまだ早い

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「店、か……」有川の表情が曇った。「納豆ラーメンなんて、今じゃ珍しくも何ともないからな。丼じゃなくて鍋ってことは、普通は自前だ。でも、店なら……出前で納豆ラーメン出してるとこもないわけじゃない。……うん? このノリの切り方は……うちうちのじゃねえか?」 「うちうち」  松樹の目配せを受けて、杉元が自分のスマホでその店を検索する。ヒットしたのは、本店の新宿を含め、新橋と日暮里、中野と都内に四店舗を展開している、つけ麺タイプを主力商品にしているラーメン店だった。メニューのコンテンツを開くと、醤油ベースのつけ麺に月見チャーシューを添えたものが並ぶ中、ひときわ目を惹いたのが納豆ざるラーメンという品だった。 「ここだ。あたしんところは魚介ベースだったけど、醤油ベースだとここがおいしいって聞いて何回か食べたんだ。これだろうな」  ウェブサイトの画像も木崎あやの食べていたものと同じく、ネギとメンマが添えられ薄い茶色をしたスープの中に、納豆の混じっている黄色く泡だった卵が浮かんでいた。 「貸して」  松樹は杉元の手にあったスマホをひったくると、しばらく食い入るように画面を見つめていたが、何かを見つけたらしくニヤリと笑った。 「松樹さん。これが決め手だったのですか?」 「そうよ。ようやく見つかったの」  ほっとため息をつく松樹。ブレーンがいるという話は終わってしまったのだろうか。いや、あの二人のうちのどちらかがブレーンだったことが、これで確認できたのだろう。  しかし、あのラーメンが何の手がかりになったというのだろうか。 「何だか分からねえけど、良かったな」  そう言って有川が部屋の中を振り返る。三國は携帯電話で誰かと話をしていた。それを見て、有川が再び二人に向き直る。 「あの……助けてくれて、ありがとうな」と、スカートの前を両手で押さえるようにして深く頭を下げた。「ホントなら、あたしからきちんとお礼しに行きたかったんだけどよ。三國さんに連絡したら、あれこれ助けてくれてバタバタしちまって……あいつ、この服も買ってくれたんだ」 「すごく似合ってますよ」
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