エピローグにはまだ早い

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「ありがとう」少し照れながら有川が微笑む。「身の回りのものも揃えてもらって、アパートの支払いも肩代わりしてくれたんだよ。西谷の財布から盗んだ二万も代わりに返してくれて、全部出世払いでいいって……捜査もあるのに、時間を見ちゃあたしの病室に来て、話してくれたんだ。やり直せる。何度でも、って……この恩は一生忘れねえよ」  これで三國も恩を送ったことになるのだろう。そこに恋愛感情があるのかどうかなど、瑣末なことだと杉元は思っていた。結果的に結ばれたのなら、それはそれで喜ばしいことだからだ。 「あんたたちも……命を助けてもらって、ホントに感謝してる。ありがとう」  再び頭を下げた有川の肩をそっとさすりながら、松樹が顔を上げるよう促した。 「私は有川さんのラーメンが大好きですから、また食べさせてくださいね」 「ああ。しばらくしたら寮の部屋を貸してもらえるらしいからよ、その時には遊びにきてくれよな。あたしはご飯作ることしかできねえから、みんなにごちそうさせてもらうよ。だけど……」 「だけど?」 「その前に、けじめをつけなきゃいけないんだ」  と、有川は頷いた。 「レシピのことですか?」 「ああ。盗んじまった店の全部に謝りに行くんだ。許してもらえるかどうか分からねえけど……」 「でも、流出したのはその一部なんですよね?」 「三國さんもそう言ってたけどよ。よこしまな気持ちで働いてたのは事実なんだ。筋を通すんなら、全部だろ?」 「なるほど……だったら皆さん、きっと許してくれますよ。その気持ちが伝われば大丈夫だと思います」 「ありがとう」有川が微笑んだ。「だから、それの禊が済んだら……あたしのラーメンを食べに来てくれよな」 「もちろん。来るわよね?」松樹が杉元を見やる。「フードジャーナリストを虜にしたラーメンですからね。ぜひいただきに参ります」杉元も頷いた。  そこへ三國が戻ってくる。 「課長から連絡があってな、ちょっと書類仕事をしなくちゃなんなくなった。……つーわけで出かけてくるわ」三國が有川を振り返る。「何もなけりゃ帰ってくるのは夕方だけど、事件がありゃ夜か夜中か……そん時にまた連絡する。メシは冷蔵庫にあるのを適当に使ってくれ。俺が帰ってくるの待たなくていいからな?」 「分かった」
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