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対決
「初めて来ましたね……」
杉元は千葉駅東口のバスロータリーで一人立ち尽くしていた。夕暮れ間近の太陽が、やや色あせた千葉駅の建物と行き交う大勢の人々をオレンジ色に照らしている。
雰囲気は都内にある乗換駅と似ていた。思えば仕事一筋であまり荒川区の近隣から離れたことがなかったため、都心から車で一時間ほどの距離にあるこの地方都市の雰囲気を、どこか楽しいと感じていた。
「いったいどこへ行ったのでしょう……」
人混みの中から松樹の姿を探す。
ドライブしましょと言われて、上野から秋葉原を経由し、日本橋から夢の島を通って、一路千葉へと走らせたその張本人は、駅に着くなりどこかへ消えてしまったのだ。
途中で見つけた店の、真っ黒なスープと分厚いチャーシューのラーメンが腹にもたれてきている。
腹ごなしに近くをぶらついていると、五分ほどして松樹が戻ってきた。小さな紙袋を手にしている。
「ごめんごめん」
「何をしていたのですか? と言うより、何をしにきたのですか? 四時まであと二十分ぐらいですが」
「だから真犯人を捕まえに来たのよ」
「それは十回ぐらい聞きました。誰なのか、どうしてこの駅なのか、全く教えてくれないではないですか」
「まあまあ、そんなにふくれてないで、行くわよ」
「ああ、もう……」
松樹に手を引かれて向かったのは、駅の中――ではなく、構内にあるコインロッカーだった。
杉元よりも頭一つ分ほど高いそのコインロッカーは横幅も広く、真ん中に操作パネルを挟んでずらりと並ぶ大小様々な大きさの区画は、どこか荘厳さすら感じさせる。
「ねえ、上に何かないか見て」
「ちょっと届きませんね。……さすがに飛ぶと肋骨に響くので、椅子か何か借りてきましょうか」
「もうそんな時間ないわ」松樹が杉元の足元を見やった。「あ、靴紐ほどけてるわよ」
――来た。
「もう引っかかりませんよ」
「そっか。残念ね」
言葉とは裏腹になぜか松樹は嬉しそうにしながら、手に持っていた小さな紙袋を開いて見せた。
「そ、それは……」
「千葉は一ノ宮にある日本一のいちご大福よ。カクハチさんの。駅の中で売ってたから買ってきたのよね」
その小さな白い大福は、ほんのわずかな桃色をまとっていた。ただのいちご大福ではない。気品が溢れていたのだ。
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