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充分なインパクトをもって出会った彼女について、杉元は三國ともう少し話し合いたい気持ちに駆られたが、それは後回しにしようとアイコンタクトをして、二人はやるべきことを始めた。
杉元は白い布手袋を両手にはめ、三國から、監察医務院から証拠物品として受領してきたスマホを受け取る。
「画面が大きいですね。六インチでしょうか。新品のようです」
「買ったばかりか、それとも使ってねえか。どっちにしろ身元が分かりゃいいんだが……できそうか?」
「うーん……」
杉元は端末を回しながら調べ始める。充電とデータ転送用の端子、それにイヤホンジャックだけがある、よくあるタイプの機種だった。カバーを外してみたものの電池しか見当たらず、MicroSDやSIMカードの差込口はなかった。かなり機能が限定された廉価版のものなのだろう。
カバーを着け直して横についた電源ボタンを長押しすると、画面に縦横三つずつ、合計九つの点が表示された。指先でそれぞれのポイントをなぞるようにして、端末のセキュリティロックを解除するための画面だ。
「それが出ちまってな。前に鑑識から聞いたんだけどよ、そうなったら何にもできねえんだろ?」
「外部ストレージもない機種ですしね。そうすると……ええ、このパターンはほぼ無限なのですよ。でも、それが分かっていたのならどうして僕を呼んだのですか?」
「USBだっけか? 前にそれでパソコンにつないで何かいじくってただろ? その技が使えるんじゃねえかな、って」
「それは自作のアプリをインストールしてデバッグしていただけですよ。それに、ロックされていたら内部メモリにアクセスすることができません。何をするにも、まずロックを解除するのが先なのです」
「ってことは、鑑識かメーカーに頼むしかないってことか?」
「サイバー犯罪対策課のほうが早いでしょうね。そういうコネがあるかも知れませんから」
「……あいつら忙しすぎて話すら聞いてくんねえんだよ。なあ。何とかならねえか?」
「そう言われましても……」
杉元は端末を見つめながら唸った。
パターンをひたすら試すのは悪戯に時間を使うだけ。下の下、一番の愚策だ。
だとしたら、持ち主がパターンをどう登録するかの思考を辿って考えていけばいい。
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