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と、またしても松樹に手を引かれ、今度は近くの柱へ身を隠すようにして立った。影からコインロッカーを見つめている。
もう本当に、心の底から訳が分からない。
「私の勘だと、あと二十分もしないうちに来るのよ」
「真犯人が、ですか?」
一瞬の間を置いて、松樹はゆっくり頷いた。
「真犯人って言っちゃうと、語弊があるかもね。今回のこの事件を全て仕組んだ張本人、言わば黒幕。そいつがここに来るはずなの」
「そんな人……いましたか?」
「いたのよ。それに証拠もあるわ。未来形で」
「それはこれから探すとか、そういう意味ですか? もしかしてあのコインロッカーに入っているとか?」
「しっ」
松樹に口元を塞がれる。その視線はコインロッカーに向けられていた。
行き交う人々の隙間から見えたのは、少女だった。細身のジーンズにブーツ、白いダウンジャケットを羽織り、ブラウンのハンチングを被っている。
その知的に見えるメガネと長い黒髪には杉元にも見覚えがあった。
「……どうしてあの子が?」
「見てなさい」
その少女はゆっくりと周りを見渡した。
誰も彼女のことなど気にも留めずに通り過ぎていく。そんな人の波を確認すると、少女はコインロッカーの中央にあるパネルに向かい、ジーンズのポケットから出したスマホを見ながら、画面をタッチしていった。
やや大きめの電子音とともに、お忘れ物にご注意くださいという機械的なアナウンスが流れた。コインロッカーの左下にあったやや広めのドアにある赤いランプが点滅する。
ガチャリという解錠音を確認すると、少女はそのロッカーへと向かった。
一部始終を録画していた松樹はスマホをそのままポケットにしまうと、柱の影から飛び出すように出ていき、人をかき分けて、すがりつくように少女の肩を掴んだ。
「こんにちは、あやちゃん」
振り返ったのは、和洋菓子本舗でレジを担当していた店主の娘――木崎あやだった。
細いフレームの眼鏡、その奥にある瞳は、突然呼び止められた以上の驚きに満ちている。
その表情で全て理解してしまった杉元は、あやの前へゆっくり歩いていくと、努めて笑顔を浮かべながら、開いたコインロッカーの前へ立ちふさがるようにして足を止め、頭を下げた。
「どうも、いつもお世話になっております」
あやが、二人を交互に見て目をぱちくりとさせる。
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