対決

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「あ、え、えっと……確か、松樹さんでしたよね? 何度かうちに取材しに来てた……あと、そちらは……?」 「僕はお店の常連客ですよ。と言っても、二週間に一回ぐらいの頻度でしたが」  杉元は嫌味にならないよう笑顔を浮かべた。 「良かった。私のことは覚えてくれてたのね」松樹も微笑みながらそう答える。「取材させてもらった時に、マイクロブログをフォローしてくれたわよね。ありがとう」 「い、いえ。そんな……」  こんな場所で知り合いに会うとはまったく想定していなかったのだろう。あやは神経質に回りを見渡しながら、頷いた。 「あ、そうだ。あやちゃん。聞いたわよ。大変だったのね。……どう? 体とかは大丈夫?」 「あ、はい。だいぶ……お店に行ったんですか?」 「うん。何回かね。それにほら、今はそのニュースで持ちきりじゃない? だから私、驚いちゃったの何の」 「あ、そうでしたね」ここでようやく気持ちを落ち着かせたのか、あやは小さくため息をつくと、杉元の足元にあるロッカーをちらりと見やり、また頷いた。「もうニュースにも出ちゃって、お父さんも逮捕されて……怖くて、あのお店にいたくなくなったんです。なので、千葉にいる叔母さんのところでしばらく住ませてもらおうって思って……」 「それでここにいたのね。ホントに怖かったでしょ?」 「はい。もう……何て言うか……」あやはもう一度確認するように、杉元を見上げた。「松樹さんは取材ですか? こんなところでお会いするなんて、偶然ですね」  その言葉を待っていたかのように、松樹が口の端を吊り上げる。 「ううん。偶然なんかじゃないの」 「え……? どういうことですか?」 「私はね、あやちゃんがここに来ると思って待ってたのよ」  松樹の言葉に、あやが絶句する。目がひくつき、唇を少し震わせている。動揺しているのが手に取るように分かった。  あやは息を呑むと、構えるように両手を体の前で合わせる。  二人の間にファイトのゴングが鳴り響いた。 「だって、それを持ち出しに来るって分かってたんだもん」  同乗するように眉尻を下げた松樹が、あやの両手を握る。そして、杉元に目配せした。  ゆっくり屈むと、杉元はランプの点滅しているロッカーから黒のボストンバッグを引き出した。それは男性が旅行で使うような、飾り気のない、どこにでも売っていそうなものだった。
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