対決

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 気づいたあやが動こうとするも、松樹の手を振りほどけずその場で立ち尽くしてしまう。 「少し重たいですね。これはあなたのですか?」  あやは首を横に振った。 「い、いえ。知りません」 「そうですか。では、中を検めさせていただきますね」  ジッパーを引いて中を開ける。入っていたのは――札束だった。帯のついた一センチほどある紙幣の束が、無造作に詰め込まれている。 「ええと……三十本ぐらいはあるでしょうか」  杉元が顔を見上げると、松樹は視線を逸らしていたあやの手を握ったまま近づき、その目を見据えながら微笑んだ。 「あやちゃん。この三千万について説明してくれないかしら? これって、犯人に奪われたお金よね?」  だが、あやは答えない。唇を固く閉ざしたその表情には、焦りの色が浮かんでいた。 「馬鹿でも分かると思うけど……このコインロッカーを開けたのは他でもない、あやちゃんなの。無関係なはずないわよね? どうなの?」  すると、あやは覚悟を決めたように口を開いた。 「それは……犯人に渡すお金なんです」 「犯人に? どういうこと?」 「犯人は逮捕された二人の他に、もう一人いるんです。その人に渡すお金なんです」  ボストンバッグのジッパーを閉めると、杉元はあやを見下ろすようにして立ち上がった。さあ、ここからどう崩していくのか。 「犯人にそう言われたの?」 「はい」あやが悲しそうな目で小さく頷く。「その人は、あの二人が逮捕されると思ってたみたいなんです。なので、解放した私に残りのお金を届けるよう脅してきました。さもないと、両親を殺すぞ、って……」 「あやちゃん……それ、不正解」松樹も悲しそうな顔をして、握っている手を振った。「私ね、今……すっごく残念な気持ちになったわ。あの二人を使って誘拐の自作自演をして、さらに警察をひっかきまわしながら、店に突入させてお金を強奪させたあやちゃんが、そんな子供だましみたいなことを言うと思ってなかったから」  それは、杉元も初耳だった。あやも動揺したように目を泳がせながら、それでも松樹を見つめる。 「松樹さん。どうしてそんなこと言うんですか? 私が誘拐の自作自演をするなんて……」 「何を参考にしたの? ドラマ? 映画? インパクトはあったと思うわ。でもね、よくよく考えるとすっごく不自然なの」 「ですから、何で私が……痛っ!」
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