対決

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「いいから黙ってて」松樹が握っていた手に力を入れたらしく、あやは顔を歪めた。「まず最初からおかしかったの。渋谷で誘拐されたって言ってたけど、どうして人を拐うのにあんな大勢が歩いてる街を選ぶの? 嫌でも人目につくし、もしかしたら邪魔されるかも知んない。あやちゃんを尾行してたんなら、もっと人のいないところでするはず」  松樹の手をふりほどけないあやは、その目を睨みつけるように見据えながら黙っていた。 「でもね、渋谷で誰かが連れ込まれたって連絡は警察に入ってなかったわ。だから思ったの。普通に乗り込んだんだなって。きっと渋谷には良く行ってたんでしょ? そこで誘拐されたなら、みんな納得すると思ったんじゃないの?」  あやがきっと唇を噛みしめる。 「それは……暴れると殺すって脅されたからです」 「ナイフとか拳銃を持ってたらそれこそ誰か気づくでしょうし、持ってないんだったら逃げるか何かして騒ぎになるでしょ? なのに何もなかった。つまり、その気で乗るぐらいしか考えられないのよね。場所も渋谷じゃなかったんじゃないの? まだまだあるわよ、あやちゃんが協力してたフシ」  ぐっと息を呑むあや。 「お金の受け渡しがおかしいのよね。最初に電話した時に受け渡しを言わないで、次の日まで待たせたじゃない? そういうのって間を置いたらすぐ警察に連絡されて、逮捕されるリスクがあるのよね。でも、そうしなかった」 「絶対に金を出すと知っていたから、ですか?」  それは杉元もかねがね疑問にしていた点だった。 「その前提があったのよ。だから警察には連絡しないと踏んでた。でもね、すぐに受け渡しを指示したら……犯人たちが危なかった可能性があったのよ」 「と言うと?」 「木崎さんは元プロレスラーでけっこう短気だったわ。実際、後で三人を怪我させて一人を殺しちゃってるし……あんたが話してた時は、病院で暴れたんでしょ?」 「ええ。それはもう……すごいものでした」  だからこそ、あの女性看護師は命を救われたと思って、何度も礼を言ってきたのだ。 「誰でもそうだと思うけど、怒る時ってその瞬間はすごいテンションになるけど、時間が経つと落ち着くじゃない? 短気の人だったら、それが顕著になるはず。だから一日置かせたのよ。娘のあやちゃんなら、お父さんの怒りの持続時間とかも分かってるだろうし」  あやが一瞬だけ歯噛みしたように見えた。
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