対決

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「でも、コインロッカーでの受け渡しは断られちゃった。これは想定外だったはず。だからこそ、羊羹ゼリーセットの件でまた惑わしたのよね。どう出てくるか分からないから、試したんだわ。実際、手下の黒田が西谷を殺した現場近くで監視してたでしょ」  有川が撮影したデジカメの動画には、アフロの男が一瞬だけ映っていた。 「自分を溺愛してるお父さんなら言いなりになるはずだった。だけど予想に反して、娘を取り返したい父親は、犯人の言いなりにはならなかったのよ。計画が崩れちゃったの。だから、どう出てくるか知りたかった」  元プロレスラーだから力加減は分かっていたはずだ。だが、それすらも狂わせるほど木崎は焦っていた。  それを娘のあやは理解していたのだろう。だからこそ、黒田を派遣して見張らせた。 「きっと全部見てたのよね? 警察が来たことも知ってたじゃない。だから取引を諦めて……奪うことにした。それが五ヶ所に分散させて、残りの五千万を奪う作戦」 「そんな……言いがかりです」 「でも、信憑性の高い言いがかりよ?」やっと言葉を発したあやに対して、松樹がにこりとしながら首肯する。「ここが不自然すぎるぐらい鮮やかなのよね。五千万を一千万ずつ分けて五ヶ所に置けって話、普通に聞いたら、残りは手元にあると思うじゃない?」  ごく普通の発想だろう。 「でも、警察が介入してるのを分かってて、ホントにそう信じられる? もしかしたら警察がお金を預かって、代わりに偽物を詰めておくとかされるんじゃないか、とか考えない?」 「その可能性も捨てきれないでしょうね」  杉元が答える。 「なのに、あの二人は車で突っ込んでいったのよ。残りの五千万が家にあるって証拠がないとできない芸当よね。じゃあ、どうやって把握するか。警察を買収する? 誰が何人来るか分かんないし、それは無理よね。残りを家に置いとけってあの二人に言わせる? そしたら強奪がバレちゃう。つまり……」 「まさか……盗聴、ですか?」 「それぐらいしかないんじゃないの。だとして、仕掛けられるのは家族ぐらいよね。もう一つ、店に盗聴とかしてないとおかしい事があるのよ。なぜ水曜日に実行したのか」  そのキーワードで思い出した。 「確か、一ノ瀬さんという方が休みだったのですよね。そうです、確かあの時も、松樹さんは従業員の方が犯人なのではないかと訝しんでました」
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