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「あの犯人たちは、武器があってもあんた一人すら倒せてなかったじゃない? そんなヤツらが、木崎さんと一ノ瀬さんの二人を相手にできるはずないのよ。でも木崎さんはお店に絶対いるでしょ? だから、一ノ瀬さんが休みの日を狙うしかなかった」
「それが水曜日でした。しかし、その方の休みが分かったのは前日。しかもマイクロブログへの投稿だけでした」
「そう。でもね、あやちゃんはフォローされてるけどフォローしてないから見ることはできなかったはず。だから従業員じゃないかって思ってたんだけど……盗聴とかしてたらそれも可能よね?」
「ええ、確かに。関係者しか知らない事実ですね」
同意した杉元を、あやがきっと睨みつけるように見上げる。
「そんなの、一ノ瀬さんの知り合いだったら知ってるでしょうし、私じゃない誰かだってことも考えられるじゃないですか」
「そうね。でも、犯人と一ノ瀬さんの両方を繋いでるのは……今のところあやちゃんだけなのよ」
ぐっと言葉に詰まるあや。
何も言い返せないらしい。その目が二人の背後に向けられた。
杉元の勘がこれはまずいと告げる。その意思を妨げるように、「さてと」と呟いた。
「木崎さん。それに松樹さんも。どうやら女性同士が手を握っていると、悪目立ちするようです。場所を変えませんか?」
「そうね。私もあやちゃんの手握ってて疲れちゃった」
松樹が片手を離す。その時、あやの右足がぴくりと動いた。
「念のため申し上げておきます」杉元はボストンバッグを持ち上げながら、あやの進行方向に立ちふさがる。「このお金は僕が預かっていますし、僕から奪うことは到底無理でしょう。仮に逃走を図ったとしても僕は軽く追いつけます。そして……今のところ、木崎さんには行くところがありません」
「そうなの。もうね、逃げ場ないのよ。あやちゃん」
そう告げると、松樹はゆっくりと片手を離した。
握られ続けて痛かったのだろう、双方の手首を交互にさすりつつ、あやは二人を睨みつけるようにして様子を伺いながら、
「……どこにも行きません。私は被害者なんです。犯人じゃありません。なのにさっきから……私が犯人だってひどいことを……。証拠があるんですか?」
と、言った。
その顔は焦りの中にも、証拠など絶対にないと言う自信が見てとれた。それもそうだろう。杉元にも全く思い付かなかったからだ。
「うん。それがあるのよ。残念だけど」
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