対決

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 だが、松樹はそう言い放った。  あやの目が見開かれる。 「犯人が和洋菓子本舗から五千万円を強奪したのは水曜日の午後一時ぐらい。黒田ともう一人は友達のバーで飲んでたって言ってる。前の日の同じぐらいの時間に偶然会って飲んで、次の日も同じ時間に。強奪した時のアリバイがあるから、自分たちは誘拐犯じゃないって言ってるのよ」 「そう……だったんですか」  何が来るのか分からないと怯えているのだろう、あやの目に落ち着きがなくなった。 「んでね。ここにこんな画像があるの」そう言って、松樹はスマホの画面をあやに見せた。「あやちゃんのアカウントを使って犯人が投稿した、生存確認用の写真」  杉元が覗き込むと、それは有川に確認した納豆ラーメンの画像だった。 「これね、納豆ラーメンなの。あやちゃんが誘拐されてる間に食べたヤツなんだけど、覚えてる?」 「いえ……」 「え? そうなの? 気づかないはずないと思うけど……このラーメンって中野にあるうちうちってラーメン屋のものなのよ。納豆が入っててね。このノリの形で納豆ラーメンを出してるのはそこだけなのよね」  有川に聞いた話だった。 「つまりね、あやちゃんは出前を取ったってことなの。誘拐事件の前日。午後一時ぐらいに。そこで思い出したのよね。犯人二人にはアリバイがあるってこと」  その瞬間、あやは目を見開いて息を呑んだ。 「言ってること分かったみたいね? 一応念を押しておくけど……この日に二人がお店で飲んでたなら、ラーメンは誰が受け取ったのかしら? あやちゃんしかいないわよね? でも、あやちゃんが犯人じゃないってことは、彼らのアリバイが崩れるのよ」  顔を紅潮させたあやの額に、じわりと汗が滲んできた。 「た……多分、前の日に注文したものかと……」 「あら。また不正解。二人がいない間に、あやちゃんはどうやって食べたの? まさか、彼らが出掛けている隙に食べたとか? なら、箸を持てるぐらいに自由だったはず。なのに、どうして部屋から逃げなかったの?」 「こ、怖くて……」 「手が自由なら目隠しもイヤホンも外せるわよね。人質がよっぽど居心地良かったみたいに聞こえちゃう。するとね、みんな思うのよ。あ、共犯だって」  答えが出てこないらしい。あやは俯いてしまった。
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