対決

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「さっき連絡があって、お店の人が証言してくれたそうよ。中野の小学校跡地で女性がラーメンを受け取ったって。時間は午後一時過ぎ」  それは初耳だった。 「もしかして、三國からですか?」 「うん。今ね、こっちに向かってる。もうちょっとで到着すると思うわ」  あやは項垂れたまま顔を上げようとしなかった。  反論できないのだろう。 「あやちゃん。良く考えて。きっと黒田たちにはこう話したのよね? 誘拐の件はアリバイがあるから大丈夫、秋葉原での殺人も精神異常が認められて無罪になる……でもね、これが通るとあやちゃんが誘拐を自作自演してたってことになるのよ。逆にあやちゃんがその時間も犯人と一緒だったってことになれば、彼らのアリバイが崩れる」  シーソーゲームだ。どちらも宙に浮いている状態は作れない。地に足を着けた途端、その足首には幾重もの大きな鉄球のついた足かせがはめられ、地上へと引きずり下ろされてしまうのだ。  そうなれば、再び地上から離れることはできなくなる。  もう一方は宙に浮いたまま――狭い板の上で少し不便なものの、自由な手足を使ってどこへでも行くことができる。  しかし、結果は見えているのだ。 「答えは出ないわよね? だってそうでしょ。もしあやちゃんが犯人たちと一緒にいたって証言したのを彼らに伝えれば、裏切りがバレちゃうもの。そしたら彼らも裏切るわ。全部あの女が計画したことだって言うでしょ。計画犯と実行犯がいたら、計画犯のほうが罪が重たくなるのよ。知ってた?」  あやと黒田たちの乗ったシーソーは真ん中から折れる運命だったのだ。 「自首するなら今のうちよ」  まだあやは顔を上げない。かすかに体を震わせていると思った時、彼女の頬から涙が一粒流れ落ちた。  声が出るのを抑えながら、あやが静かに泣き出す。涙が次々と通路の床を濡らしていった。  そこに何らかの事情があったのは間違いない。今、ここに来て、自分がしてしまったことの大きさに気づいてしまったのだろう。  杉元はジーンズのポケットからハンカチをそっと差し出した。 「わ、私……嘘つきました」受け取ったあやは目元を拭きながら涙声で話し始めた。「あの人たちに誘われたんです。日本を変えたいって」  黒田のことを言っているらしい。
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