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「そんな話で騙せるのは、いちご大福で興奮するような男ぐらいなものよ」
「ちょ……」
異議を唱えようとした杉元を、松樹は手で制した。
「ねえ、あやちゃん。最初に言ったわよね。あやちゃんがここに来ることを知ってたって。どうしてだと思う? 逆算したのよ」
再びあやが警戒するように体の前で手を合わせた。
「警察と知り合いなんですよね。私が叔母の家に行くことを知ってたんですか?」
「そうよ。でも、思ったの。きっとあやちゃんはその叔母さんの家には行かないって。行くところは、そう……カナダよね」
その単語に一瞬の間を置いてあやが反応する。
「私がカナダに? どうしてですか?」
「高一の時にカナダでホームステイしてたのよね。あっちで知り合った友達とはすっごく仲良くしてるとか。英語も普通に話せるみたいだし、第二の人生を歩むには問題ないじゃない」あやの様子を伺いながら続ける。
「成田発バンクーバー行きの飛行機を調べたら、最終が十八時半だったの。手荷物検査とかもあるから、一時間前には着きたいでしょ? すると、千葉駅を四時過ぎには出ないとダメよね? ぴったりだわ」
まだ笑顔を崩さない松樹の問いに、同じく少し引きつったような微笑みを湛えながら、あやは分からないといった風に首を傾げた。
「あんたはお父さんにうんざりしてた」浮かべていた笑みを消し、松樹はあやを睨みつけながら続けた。「店の手伝いをさせられて、やりたいこともできずにお菓子職人になるのが嫌だった。一億もかけて店の改装なんてされたらもう逃げられないわ。でも今すぐ逃げるお金もない。で、思いついた。一億を奪っちゃえって」
「そんなこと――」
「そんな時に会ったのが黒田。あいつ、女に免疫なかったみたいで粘着質だから、あやちゃんの誘いに乗ったんでしょ。ヤらせてあげた? ま、そんな程度の頭じゃ体を使うぐらいしかできないわよね」
あやの目元がぴくりと動く。悔しさを我慢するように歯噛みした。
「あんたは黒田ともう一人を操った。彼らの望みを叶える代わりに協力してって。逮捕されても、いい弁護士をつけて絶対救うから暴れちゃってって言ったんじゃないの? 男二人を手玉にとった感想はどう? 面白かった?」
なおも松樹は続ける。
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