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「すいません。どれがいいかを選ぶのに夢中になってしまい、困らせてしまって申し訳ございませんでした」そして、杉元はショーケースに置かれたいちご大福を手の平で示す。「この子……いえ、このいちご大福をお願いいたします」
「はい、こちらですね」
お嬢さんと呼ばれた女性店員が、冷蔵ショーケースの裏からいちご大福を一つ取り出そうとして――、
「あっ」
「はい? どうかされました?」
「そちらは僕には少し刺激が強く……いえ、それではなくて、その隣のやや小さいほうをお願いします」
「は、はあ。分かりました」
女性店員は戸惑いながらも、言われた通り、形も量も変わりのない隣のいちご大福を取り出して紙袋に包み、杉元に手渡した。細いフレームの中から送られてくる訝しげなその視線を受けながらも、杉元は平常心を保ちながら精算を済ませて店を出る。
そして足早に歩き角を曲がったところでその足を止めると、紙袋を開けて中に収められたいちご大福を見つめ――にんまりと笑った。
「あ、杉元先輩!」
「は、はい!」
背中からかけられた声に驚いて紙袋を閉じた杉元が、恐る恐る振り返る。駆け寄ってくる制服姿の警察官を見て、彼はほっと胸を撫で下ろした。
「福屋くんではないですか。ああ、びっくりしました。どうしたのですか? と言うより、どうして僕がここにいることを?」
「三國先輩から、水曜なら日暮里の和菓子屋にいるだろって聞いたんで、探しまわったんスよ。メール、気づいてなかったんスね」
切れた息を整えるように二、三度深呼吸した福屋は、制服の胸元にあるポケットからスマホを取り出して杉元に見せた。
「それはすいません。勤務中はメールを見ないようにしていましたので」
「それはいいんス。んで、唐突なんスけど……これ、分かりますか?」
そう言って福屋が切り替えた画面に映っていたのは、色とりどりの水着を着けた若い女の子たちが、海辺で楽しそうにはしゃいでいる画像だった。
キャッチコピーや日付も見えることから、何かの宣伝で使われたポスターなのだろう。
「ええと……確か、秋葉原を拠点にして活動しているアイドルグループでしたね。有名になったグループの妹分だとかで、福屋くんが毎週のように駅前で開催されている公演に通っているという」
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