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パスワードなら、誕生日や電話番号、家族や恋人の名前など、いくつかの定石がある。パターンの場合なら、九つの点を繋いで作る図形がイニシャルのアルファベットだったりすることもあるだろう。
その拠り所があれば推測もできるのだが、現時点では持ち主のプロフィールどころか名前すらも分からないのだ。
端末をひっくり返してメーカー名を確認する。台湾製で、自分が知っている限りでは、廉価版として広く普及しているラインナップの機種だった。ユーザーは、仕事で持ち歩いていたり趣味で端末を集めているようなマニアではなく、ただの一般人だろう。
何か手がかりはないかとあちこちを見ているうちに、杉元は気づいた。
「分かりましたよ」
「マジか?」
三國が覗き込んでくるのを横目に、杉元は画面に表示された点を、アルファベットのゼットを書くように指でなぞった。
すると、画面が切り替わって、時計とアプリのアイコンがあるだけのシンプルなホーム画面が表示されたのだ。
「すげーな、おい。どうして分かった? 何がヒントだったんだ?」
「簡単ですよ。蛍光灯に照らしたら皮脂の筋が見えたのです。何回も同じことをしていたらしいので、それが残っていたのが分かったのですよ。以前に、彼氏のスマホが見たいというネットの相談に、こうすればいいと回答がついていたのを思い出しました」
「新品だから、なおさら良く残ってたってわけか。しかし……こえーな」
「そういう時代なのですよ。健次郎もいい加減にガラケーはやめてスマホにしたらどうですか?」
「遠慮しとくわ。使い方で悩むほど暇も頭も足りてねえし」
「期待通りの答えで良かったですよ」
くすくす笑いながら、杉元がスマホの中を確認していく。三國も脇から画面を見つめていた。
まるで展示品のようだ。アプリを見てもデフォルトでインストールされているようなものばかりで、自分で導入したりカスタマイズした形跡は見当たらなかったからだ。
持ち主はスマホを初めて使ったか使い慣れていないことが伺える。次にメーラーを起動してみたがアカウントは登録されておらず、他のSNSアプリを立ち上げても初回登録を促す画面が表示される始末だった。
「せめてここぐらいは……」
設定画面を開き使用者の欄をタップするも、個人の特定に使えそうな情報は一切登録されていない。
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